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【連載小説】君の消えた日-二度の後悔と王朝の光-32話 闘う理由と譲れないもの1-鳴かぬ蛍が身を焦がす-

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――コトン
小さな物音がして目が覚めると、みおがバツの悪そうな顔をしていた。
たちばなさんおはようございます。いや、もうこんにちはですね。・・・すみません。起こしてしまいましたか」
澪をよく見ると、向日葵ひまわりが生けられた花瓶に手が添えられている。
(さっきのは夢か・・・すげーリアルだったけどもしかして・・・)
「気分が優れない様でしたら美鶴みつるさんを呼んで来ましょうか?」
「いや、大丈夫っす」
そう言いながら永遠とわはゆっくり起き上がった。
「起き上がって大丈夫ですか?出血が酷かったし、まだ横になっていた方が・・・」
「あれからどのくらい時間経ってるんすか・・・?神官は?!いっ・・・!?」
永遠は力を入れた時に右足に痛みが走った。
「落ち着いてください。心配ありません。何かあったとしても俺が対処できます」
「え、どういう・・・?」
永遠が困惑していると、澪はシャツのボタンを外し、首筋に浮かぶあざを見せた。
「先にお伝えするべきでしたね。俺は五麟ごりんの一人、角端かくたんなんです。昨日の東櫻とうおう大学100周年記念祭中に覚醒かくせいして」
鷲尾わしのお家の人間が五麟・・・!?」
「俺も驚きました。ただ、神術しんじゅつが全く使えなかったのはそう言うことだったのかとに落ちました」
「その・・・理由がわかって良かったすね。でも結局実家と敵対してるから良くねぇのか・・・?」
難しい顔をしてる永遠を見て、澪はくすりと笑った。
「気を遣わせてしまってすみません。これで良かったんですよ」
「・・・澪さんが良いんなら良かったっす。そういえば、澪さんも痣が出たままなんすか」
「・・・結界を張っていますからね」と、澪は一瞬言葉を詰まらせながら応えた。
「それもそうっすね」
澪がベッドの横に置いてある丸椅子まるいすに腰をかけたのを確認して、永遠も座り直した。
「・・・イベントはあの後どうなったんすか。俺、怨霊を浄化して結界がなくなった後、倒れ込んだところまでしか記憶がなくて・・・」
「神官が橘さんを襲おうとしましたが、俺が対処しました。柊さんに感知されないようにホールの方にも結界を張って、五麟を順番に排除しようとしていたようです。神官は兄が差し向けた者でした・・・。彼らを警察に引き渡すと俺たちは残って警護を続けましたが、イベント自体は他に大きなトラブルなく終了しています」
「あの後は何事もなかったんすね・・・よかった」
永遠は大きく息を吐いた。
「橘さんが倒れてから約1日経っています。今は月曜日の16時すぎです。俺は講義が午前だけだったので、午後から講義がある入江いりえさんと交代しました。高校はそろそろ授業が終わる頃ではないでしょうか」
「俺、丸1日寝てたのか・・・どうりで背中が痛い訳っすね」
「怨霊を浄化できたということは、克服できたんですね」
「俺、結界に飛び込んだ後も震えが止まらなくて。でも、過去の五麟がどうこうじゃなくて、今の俺がどうしたいのかを考えたらちゃんと結論を出せたっつーか・・・」
「――橘さんはどうしたいと思ったんですか」
「え?」
「すみません。答えたくないなら良いんです」
「いや、全然大丈夫っす。・・・俺はこの力で1人でも多くの人間を守りたい。この数ヶ月で傷つく人間を何度も見てきました。五麟として歩むことを決めたのは自分だから、守れるかどうかじゃなくて守りきらないといけないって思ってます」
「・・・そうですか」
澪はずっと真剣な表情で傾聴していたが、その眼光はとても鋭かった。
「俺も聞いても良いっすか」
「・・・なんでしょうか」
「澪さんは自分が五麟って知って・・・角端って分かって、戸惑いはなかったんすか。いきなり兄貴の差し向けた神官と戦ったんすよね?抵抗とか・・・あってもおかしくないじゃないっすか」
「戸惑いはありませんよ。俺もやっと皆さんの力になれるんですから」
「もし兄弟で殺し合うことになっても・・・?」
「えぇ。俺には譲れないものがあります。兄がそれを奪うつもりなら・・・容赦はしません」
「なんで俺以外の五麟って覚悟が決まっているんすか。こんなに俺は悩んでるのに、みんな動じないじゃないっすか」
「・・・橘さんの方が普通だと思いますよ」
「そうっすかね・・・?」
永遠が腕を組んでうなっていると、澪から次のように切り出された。
「――橘さん、柊さんが何故この仕事を始めたか聞いたことがありますか」



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