【連載小説】君の消えた日-二度の後悔と王朝の光-31話 インタールード1-覆水盆に返らず-
「炎駒」
回廊で呼び止められ振り返ると、そこには索冥がいた。女性でありながら褐衣を着て内裏を闊歩する姿を見て、貴族たちは声を潜めて何かを言い合っているが、彼女は全く気にしていない様子だ。
「索冥か。内裏に来ているなんて珍しいな。遠方の任務についていたと聞いていたが」
「陸奥だ。今日はその報告に」
「・・・件の霊の対処か?」
「あぁ、そうだ」
ここで、炎駒は索冥の後ろに小さな人影が隠れているのに気がついた。
「その子は・・・」
「角端だ。ほら、炎駒に挨拶を」
「・・・はじめまして」
角端は一礼をした後、すぐに索冥の後ろに戻ってしまった。
「角端を見つけたという話は聞いていたが、幼いな。いくつだったか・・・」
「まだ十だ。主より角端の指南役を賜っているから、任務にも連れ出している」
「その年齢で覚醒しているのか?」
「いや、痣が発現しただけだ」
「いくら主の命とは言え、そのような童を連れ出すなど・・・」
「私たちも十三で任務についていただろう。それに主は一刻も早く角端を一人前にとの仰せだからな」
「あの方は先見の明がお有りだが・・・何をそこまで焦っておいでなのか・・・」
「怨霊の出現は絶えない。何者かが意図的に出現させているのではないかとの噂もある。炎駒もくれぐれも注意してほしい」
「それはお互い様だろう。怨霊と対峙しているのは索冥なのだから」
「現場で対処しているのは私だが・・・首謀者はおそらく内裏にいる。主に危険が及ばないよう守ってほしい」
「索冥、無論だ。主は必ず守る。・・・約束する」
索冥は微かに笑うと、「また会おう」と言ってその場を立ち去った。
【次話】32話 告白と補講1-鳴かぬ蛍が身を焦がす-
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