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【連載小説】君の消えた日-二度の後悔と王朝の光-33話 闘う理由と譲れないもの2-鳴かぬ蛍が身を焦がす-

前話】 【最初から】 【目次

東櫻とうおう大学100周年記念祭での激闘後、東雲しののめ医院に入院した永遠とわはお見舞いに来たみおに「柊がなぜこの仕事を始めたのか」とたずねられていた。
しゅう怨霊おんりょう退治をしてる理由ですか?えっと・・・確か、探しものをしてるって言ってました」
「探しもの・・・?怨霊の浄化ではなく?」
「はい、俺は覚醒かくせい前だったし詳しくは聞かなかったんすけど、今思えば太陽のげきのことだったのかなぁって。あと無理を重ねた時に、芝山しばやまさんから『”死ねない”んだろう?』って聞かれてたし、余程会いたいんだなって」
「"死にたくない"のではなく"死ねない"なんですね・・・。参考になりました。ありがとうございます」
澪は頬杖ほおづえをつきながら思案にふけっている。
(なんでこんなに柊のこと気にしてるんだろう・・・俺が意識を失っている間に何かあったのか?)
永遠の視線に気づいたのか、澪は「すみません、ほうけてしまって」と言って笑顔を作った。
「あの・・・澪さん、やっぱり五麟ごりんにとって太陽の覡って特別的な存在なんすか?」
「彼の従者ですからね、五麟は。前世ではそうだったかも知れません。現世ではどうなんでしょう?怨霊を浄化しながら太陽の覡を探しているんですか?」
「そういえば、太陽の覡の捜索そうさくの話はあんまり出てないっすね。あいつ、気になったら制止されても突き進んじゃうと思うんすけど」
「俺のところにもお一人で来ましたしね」と言いながら澪は苦笑した。
「・・・そういえば俺、昔の炎駒えんくの夢を見ました」
「炎駒の夢ですか?」
「はい、索冥さくめいと話してました。話した内容は覚えてないけど、ちっちゃい角端かくたんもいたような・・・」
「角端は五麟の中で一番年が離れていましたからね」
千年前のことを明確に答える澪に違和感を覚えた永遠は、「澪さんってそういう夢見たことあるんすか?」と尋ねた。
「夢を見てはいないですが、記憶は少しだけ持っています」
「もしかして、記憶の錯綜さくそうってやつっすか?!・・・っっった!」
永遠は前のめりになったが、またしても右足に力を入れてしまい思わず声が漏れた。
「だ、大丈夫ですか・・・?」
「すんません。俺、また右足を負傷してたの忘れて・・・続けてください」
「・・・はい、俺が覚えているのは太陽の覡が亡くなった後、索冥と一緒に全国各地の怨霊を浄化して回っていた時の記憶です」
「そうだったんすね・・・」
「橘さんは記憶をお持ちではないんですよね?」
「そうなんです。俺何も覚えてなくて・・・あの、太陽の覡ってどういう人だったんすか。あいつが・・・鷲尾兼路わしのお かねみちが『太陽の覡は千年前に世界を破滅させる陰謀いんぼうたくらみ、露見ろけんしたことで自害した』って言ってたじゃないすか」
「現世に現存しているのは、鷲尾家に伝わる神官目線の文献と、有坂ありさかに伝わる当時の角端が過去の出来事を振り返って書いたとされる文献です。いずれも共通しているのは、太陽の覡がご逝去された日に、聳弧しょうこ麒麟きりん、炎駒の3人が亡くなったということです。角端は太陽の覡がご逝去された日には傍にいなかったようです。索冥と一緒に有坂家の救援に向かっていて、そこで知らされたようですね」
澪は病室から見える外の景色を見ながら答えた。
「――そうなんすね」
「前世の角端は幼くて、一度も太陽の覡に仕えることがなかったようなんです。だから、俺が持っている記憶の中には太陽の覡に関する記憶はほとんどありません」
「あざっした。答えづらいこと聞いてすいません。てか、全然敬語じゃなくて良いっすよ」
「あぁ、これはくせなので気になさらないでください」
「前に五麟や太陽の覡が現れたのって平安時代っすよね・・・日本史の教科書をパラパラ見ましたけど、戦いもなくて平和なんだとばっかり思ってたんすけど」
「・・・あの時代は現代のみなさんが思うほど、平和な時代ではなかったと思いますよ。内裏だいりでは政略が渦巻いていましたし、怨霊の被害も甚大じんだいでした。救うことができない命も多かった――」
――ガラッ!
病室の扉が開いて、美鶴みつるが顔を出した。
「永遠くん、こんにちは。目を覚まされたんですね」
「美鶴先生、俺・・・」
「五麟は回復が早いとはいえ、今回の永遠くんの怪我は重傷です。数日間は入院してくださいね」
「・・・っす」
「俺、芝山さんに連絡してきますね」
澪は病室を出て、スマートフォンの画面をタップした。
「芝山さん、鷲尾です。橘さん目を覚まされました」
『そうか。そのまま入院だろう。夜には冴木さえきを向かわせる。お前と茅野に今夜の任務について説明したいんだが、一緒にいるか?』
「柊さんはたちばなさんが目を覚ます少し前に、病院を出られてしまいました。調べたいことがあるからと言って」
『・・・そうか。では後ほど説明しよう。集合時間と場所だけこのあと送る』
「わかりました・・・芝山さん、一つお願いがあるのですが」
『なんだ?』
澪は一呼吸を置いて切り出した。
「3年前に発生した珠川たまがわ河川敷爆破事件の資料があれば見せてもらえないでしょうか」
『・・・一体なぜ?』
芝山は不審そうな声を出したが、澪の反応を伺うために最低限の質問をした。
「ちょっと思い出したことがありまして」
『それは確かめてから俺に報告したいという意味で合ってるんだな?』
「もちろんです。俺はもう本部の人間ですよ?」
澪は芝山が語気を強めていることはスマートフォン越しにも分かったが、澪もひるむことなく切り返した。
『・・・わかった。準備をしておく』
「助かります」
『取り扱いには注意してくれ。少なくとも橘に悟られないように』
「――それはどういうことでしょうか」
『資料を見れば分かる。ではよろしく頼む』
「・・・わかりました」
そういって澪は通話を終了した。

「永遠、大丈夫?」
永遠が東雲医院の病室でゲームをしていると、眞白ましろがケーキの箱を手に現れた。
「あぁ、眞白。悪ぃな、心配かけて。今日も塾だろ?」
「このあと行くよ。病院から塾に直接行けば30分くらい病室にいられるから」
眞白は病室にある丸椅子まるいす腰掛こしかけた。
「入院するって聞いてたけど、大怪我だよね。包帯だらけだし、点滴も・・・一体どうしたの?もしかしてアルバイトで?」
「いや、それが・・・」
――【橘はアルバイトからの帰宅途中で交通事故にったと、高校側には通してある】
芝山から来ていたLINEには理由を合わせるよう指示があった。
(眞白に早く伝えるんだよ・・・間が空くほどあやしまれんだろ・・・!)
すると永遠の様子を見て、眞白が先に切り出した。
「・・・ねぇ、永遠。3人で夏祭りに行かない?」



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