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映画【ラーゲリより愛を込めて】運命に翻弄された人々の、愛と絆の物語。(ネタバレ含む)


【あらすじ】
78年ほど前の戦後、零下40度もなる厳冬の地シベリアの強制収容所“ラーゲリ”で、約60万の日本人が捕虜となった。
ラーゲリでは重労働と体罰がくり返され、1日の食事はパン一切れ。いつ帰国できるかわからず絶望する中、ただ1人希望をもち続けた男がいた。
山本幡男さんである。
彼は妻モジミさんと「日本で落ちあおう」と約束したまま、捕虜となってしまう。8年後、帰国の兆しが見え始めたころ彼の体は病気に侵され、余命はたった3ヶ月。彼はどう生きたのだろうか。


1.山本幡男という男

自身に辛いことがあったとき、他人を優先できるだろうか。ラーゲリでは、どんなときも仲間や家族を想う山本さんの温かい人柄が伝播していく。

ある日、山本さんは捕虜らを野球に誘う。これまで関わることがなかった捕虜同士が野球を通して仲を深め、初めて笑顔を見せた。

その後、彼らは常に前を向いていた。
雲ひとつない青空の下、過酷な重労働をする中で「シベリアも空が広いんだなあ」と、空を見上げる表情は清々しかった。

松田さんを変えたのも山本さんである。
松田さんは戦場で友人を亡くし、「自分は卑怯者だ」とラーゲリでは誰とも関わらなかった。そんな松田さんを気遣い、声をかけたのは山本さんだった。
山本さんが病気になったとき、松田さんは自ら労働ストライキを起こした。シベリア兵に殺される危険を冒しても、山本さんを大きな病院に連れて行くよう懇願したのだ。

「生きているだけじゃだめなんだ、ただ生きているだけじゃ。山本さんのように生きるんだ。」

松田さんの生きる覚悟を感じた瞬間だった。


2.生きるために必要なこと

①希望をもつということ

ラーゲリでは栄養失調で亡くなる人や、生きる理由を失い自死する人が増えていく。けれど山本さんは、最後まで「いつかダモイ(帰国)の日は来る」と信じ、日本人捕虜らにも「必ず希望はある」と励ました。
山本さんには、モジミさんと交わした「日本で落ち合おう」という生きる希望があったから、ラーゲリの中でも強く生きられた。

確かに、生きるには「希望」が必要である。
数年前の私は将来に期待などなく、『なぜ生きているのか』をよく考えていた。そんなとき10代に書いた〈やりたいことリスト〉を見つけたのだが、何も叶えていないことがショックだった。そのときから私は、やりたいことを全て達成するまで絶対に生きると決めた。
生きるには希望が必要なのだ。

②誰かを愛するということ

山本さんは一番に家族を愛していた。
11年間も妻との再開を望み、モジミさんもまた山本さんと交わした約束を信じ続けた。

余命3ヶ月となった山本さんは、愛する家族のために遺書を書いた。

「妻よ、よくやった!実によくやった!」
この書き出しから始まる妻への遺書には、女手一つで幼い子供3人を育ててくれた感謝と、深い愛が伝わってくる。
子供たちに残した言葉も印象的である。山本さんは「人間最後に勝つものは【道義、誠、真心】である」と言う。
たしかに人間の心はとても弱い。生きる環境や状況によって、正しい行動ができなくなることもある。山本さんは過酷な環境の中でも【道義、誠、真心】を忘れなかった。

ただラーゲリで文字を書き残すことは、スパイ行為である。4人の捕虜らは、山本さんの遺書が取り上げられてしまう前に記憶し、帰国後、山本さんに代わって家族のもとへ誦じた。
彼らがそのような行動をとったのは、山本さんへの恩返しだったのだろう。山本さんのおかげで生きることを諦めなかったし、山本さんが病気になってからは遺書を届けることが生きる理由になっていた。
4人が遺書を届ける姿には、山本さんへの愛が伝わってくる。


3.令和という時代で

2020年以降、思いがけないことが次々と起こった。
コロナという新型ウイルスの流行、
ロシア・ウクライナ戦争の発生、
朝鮮によるミサイルの発射。

当たり前だった日常が、一瞬にして消えた。
不安な時間を過ごした。

家族とは何か。
仲間とは何か。
生きるとは何か。

毎日が目まぐるしく過ぎていくで、当たり前すぎて忘れてしまっていたことを山本幡男さんの人生を通して考え直した。

私の先祖はどんな苦労をし、どんな奇跡があって今の私がいるのだろうか。
繋いでもらった命を全力で生き、次の世代につなげていくことが私たちの生きる理由なのかもしれない。

この作品は戦争時代を悲観する映画ではない。理不尽な運命に翻弄された人々の、愛と絆の物語である。

133分間、エンドロールの最後の最後まで胸を打つ瞬間が詰まっている。
フィクションかノンフィクションか、みなさんの目で確かめてほしい。

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