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スペイン美女を笑わせようと思ったら、学級崩壊に繋がってしまった話

スペイン美女を笑わせようとしただけなのに、結果的に学級崩壊させてしまったことがある。

学級といっても、語学学校の10人強の少人数クラスで、そもそも授業自体がユルユルなものなので、崩壊させる対象としては大層なモノではない。
また、ここで言う崩壊というのは悪質な意味ではなく、クラス中の爆笑をかっさらい、平和的に授業を機能不全にしたという意味である。

これは、程度の低い、非常にくだらない話なので、期待をせずに、温かい目で最後まで見守ってほしい。
たぶん、「え、それの何が面白いの?なんでそれでクラス中の爆笑をかっさらうことができたの?」という人もいると思う。

まあ、一旦落ち着いて聞いてほしい。
先に一つ断っておきたいのは、これが起きたのは授業中だということ。
授業中って、退屈な瞬間が多いから、くだらないことで笑えてしまうものだ。
つまらない時間が続くと、みんな、面白いものを見つけたくて、何かに笑いたくて、ウズウズしているのだ。

もう一つ断っておくと、日本の名だたるリアクション芸人顔負けの、自然にふるまうこと自体がオーバーリアクションに繋がってしまうような、外国人たちが相手だったということ。
そういう海外の荒くれ者たちを相手にすると、ハマったときは、爆発的にウケるものである。

だから、この話を、「ウケた話」として堂々とnoteで発表すること自体、どうなのかという葛藤もある。(お気づきか?序盤で上げてしまったハードルを下げようと今必死になっている。)

そもそも、「あの日、爆笑をかっさらい、全員動けなくしてやりました。それでは聴いてください」なんて入りは、オモシロ話をしようとするときに一番やっちゃいけないことである。
仕事上の知り合いで、「この話、ケッサクでさ、ちょっと聞いてよ」というフレーズがクセになっているおじさんがいるが、その後に続く話が傑作だった試しはない。

この話をしようかしまいか、非常に悩ましいのだが、一度乗りかけた船だ。
恥を忍んで、本題に移ってまいる。


舞台はオーストラリア。
僕はそのとき、18歳だった。

オーストラリアで浴びた洗礼については以前の記事でも述べた通りだが、この話は、その期間中のひとコマである。

語学学校での同じクラスには、日本人の他に、中国人、韓国人、フランス人、スペイン人、ドイツ人がいた。

その中に、エレーナという23歳のスペイン人女性がいたのだが、エレーナは、海外ドラマ「セックス・アンド・ザ・シティ」に出てきそうなスレンダーな金髪美女だった。

僕はエレーナの気を引こうと、授業中にある奇行に乗り出した。

その前に、まずは教室内の配置について説明しておこう。

下のイラストのように、長テーブルが四角形に並べられた、会議室のようなレッスンルームに、我々はいた。

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ジャックという名のおじさん先生が前方ホワイトボード側に座り、10人強の生徒が、コの字型に座って、授業を受ける形だ。

僕はジャック先生側に向かって右サイドにいたのだが、エレーナは、ちょうど逆サイドに座っていた。

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そのエレーナに対して、僕は一つ、仕掛けてみた。
授業中なので、ジャック先生にはバレないように、エレーナだけに届くようにこっそりやった。

僕がエレーナに見せた仕掛けについて、説明しよう。


あの、消しゴムって、あるじゃない?
あの、MONOの、トンボの、青白黒の、日本で一番売れてるであろう、あの消しゴム。

その消しゴム本体のカバーを一旦外して、あるメッセージを書いて、またカバーで覆ったのね。

それで、カバーをゆっくり外しながらそのメッセージを見せていったわけよ。

始めは、下にある画像の状態から始まるのね。
まずはこの基本形を、正面にいるエレーナに見せるわけ。

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これ、画像は手で持ってないけど、実際には両手で両端を持って、エレーナに見せつけてるからね。脳内で、目の前の男がこれを見せつけてきてるところを想像してね。

これを、次の画像みたいな感じで、徐々にズラしていくのね。

画像2

まず出てくる文字は、I。

この流れで、更にカバーを外していくわけよ。

画像3

はい、「I love」と出ました。

この動きを、ゆっくり続けるわけ。

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はい、ここまで来ました。

「I love y」

ここまで来たら、もう予想がつくよね。
I love youという愛の告白がくるんだと。
いや、ここまで来なくても、勘のいい方は「I love」で気付いてたかも。

なんなら、美女エレーナは、「I」だけで気付いてたかもしれない。
なんせエレーナは、学校の男性陣から(主にアジア人たちから)モテまくっていたので、彼女からすれば、序盤の方で「ああ、また馬鹿な日本人があたしに愛のメッセージを送ろうとしてるんだわ」と思ってても、何らおかしくない。

もう少し、カバーを外してみる。

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「I love yo」

もうこの時点で、エレーナが、僕に向けて優しく微笑んでくる。

「あら、ありがとう」
エレーナはアイコンタクトで、確かにそう言った。

「ジャパニーズ消しゴムを使って、あたしにI love youと伝えてくれたのね」
エレーナが、目でそう語りかけてきているのがわかる。

その目には、「あなたの気持ちはありがたく受け取るけど、これ以上は踏み込ませないわよ」という頑なな意志も感じる。

ここからである。

僕はカバーを最後まで外した。

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「I love yogurt」

どーん。

※和訳「私はヨーグルトが大好きです」

愛の告白かと思いきや、ただの乳製品好きの報告だったのである。

その瞬間、エレーナは吹き出した。
絵に描いたような、わかりやすい爆笑である。
僕の期待を大きく超える彼女のリアクションに、逆にこちらが驚いたぐらいだ。

ただ、そこはエレガントなエレーナ。
大笑いしたのをなかったことにしようとして、咳払いをして、なんとか平常心を保ったようだった。

それでも、エレーナはI love yogurtがツボに入ったようで、その後もずっとニヤニヤしていた。
僕は、気になるあの子を笑わせることができて、これ以上ない満足感に包まれていた。

エレーナは、このことを誰かに話したくて仕方なくなったのか、彼女の隣にいたフランス人のキャロルに、こっそり伝えたようだった。
「あの馬鹿な日本人が変なことやってるから、見てみてよ」、たぶんこんな感じだ。

念のため、教室内MAP上でも、キャロルを召喚しとこう。

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フランス人女性のキャロルは、100キロを超える巨体で、しかも僕のホームステイ先でのルームメイトだった。

キャロルは大切な友達だが、キャロルに対しては恋愛感情がゼロだったので、キャロルが相手だと、「I love you」のメッセージを伝えようとしているように見せかけるというフリ自体がそもそも成立しない可能性があったのだが、エレーナの面子を潰さないためにも、キャロルに同様の芸を見せた。

すると、キャロルも吹き出して笑った。
エレガントなエレーナとは違って、豪快なガハハ系の笑いだ。

キャロルのガハハに対し、さすがにジャック先生も怪訝な表情を浮かべたが、もともとキャロルは授業中の私語が多く、パーティーの翌朝は学校に来ないような不真面目な生徒だったので、ジャック先生は「キャロルか。コイツまたなんかやってるわ」ぐらいに流していた。

だが、この消しゴム芸の流れはそこで終わらず、授業が進むにつれ、その動きがどんどん広まっていった。
そのネタが横に前にと伝播していって、「われもわれも」と、いろんなところで秘密のメッセージ交換が始まったのである。

ある人はノートに「I love YOUTUBE」と、ある人は自分の腕に「I love yo-yo-ma」と、書き込んでは周りに見せるという、謎の流れができた。

僕も調子に乗って、思いつく限りの芸をどんどん繰り出した。
やればやるだけウケる、ボーナスタイムである。
ここで勝負しなかったらいつ勝負するというのか。
僕の手の甲や腕は、ペンの跡だらけになった。

ククク、ハハハ、ヒーヒッヒ、みたいな笑い声が、そこら中から漏れ聞こえてくるようになった。
授業中の独特な雰囲気の中、笑いをこらえようとする空気が、より大きな笑いの波を生んでゆく。そんな感じ。
いつしかクラス全体が爆笑の渦に飲み込まれ、もはや、誰も授業を聞いていなかった。

これでさすがに、ジャック先生も授業を止めた。「オマエら、何をやっとるんだ」と。

僕はそれまでこの状況を楽しんでいたものの、そこからは自分の身を案じた。
図らずも周りを巻き込んで授業を台無しにしてしまったので、さすがにジャック先生から厳重注意を受けるだろうと、覚悟した。

だが、ジャック先生はネタの構造を知ると、「そのジョーク、最高だな」とノッてきて、そこからは全く授業が進まなかった。
それ以降ジャック先生は、「Hey boy、次はどんなネタを見せてくれるんだ?」という絡みをしてくるようになった。

大らかなオージー(オーストラリア人)のジャック先生は、授業中でも授業外でも、果敢なチャレンジに対しては、大袈裟にサムズアップやビッグハグをしてくれる、新庄監督に勝るとも劣らない、器のデカいBIG BOSSだったのである。

これが、オーストラリアの語学学校で、スペイン美女を笑わせようとしたら、授業を崩壊させてしまった話。

本分の勉強からは程遠いものなので、良い子はマネしないでね。


おわり

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