東京銀座記


「昔恋しい 銀座の柳……」
雨の中、傘も差さずに銀座を闊歩する。
2年振りの東京、銀座。
雨が降っているから、厚底の靴で歩くだけの観光。
何度も聴いた歌を口ずさみながら、一回転。
紺のワンピースの裾が揺れる。

「植えて嬉しい銀座の柳……」
昨日の雨で冷えた空気を吸う。
カラリと晴れた青空にツバメは飛んでいるか。
柳の下に待つ者もなく、店のウィンドーを横目に一人で銀座を歩く。
千疋屋でキャンディを買った。

パウリスタでコーヒーを飲む。
「ある粉雪の烈しい夜、僕等はカッフェ・パウリスタの隅のテエブルに坐っていた。」
隅のテーブルに座り、コーヒーの香りに在りし日の彼を想う。
酸味が強く癖のある味は忘れない。
銀座の街は今日も暮れる。
大阪へ帰る時間はもう目の前にあった。

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