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【掌編小説】4色のガーベラと彩り鬼

 私の家系で閉じ込めている赤鬼さんはガーベラが好きだった。どこで調べたのかその赤鬼は博学で様々な事を知っている。
 色によって異なるガーベラの花言葉を彼に教えて貰って、私もガーベラが好きになった。
 ピンクのガーベラの花言葉は「感謝」、「崇高美」。オレンジは「神秘」、「冒険心」。白は「希望」、「律儀」だそうだ。
 ガーベラの花言葉は尊いものばかりだ。
 彼はただ異形という事と、人間よりも頑丈な事、そして長く生きている事から、この狭苦しい檻に閉じ込められている。私は彼と子供の頃からお話ししているけれど、悪い鬼なんて思った事がないし、悪さをしただなんて歴史もなかった。
「いつまでも閉じ込められていていいの?」
 と、彼に尋ねた事がある。
 すると、彼はこう答えた。
「僕はわりかし自由に生きてるんだ。長く永く生きているとね、空気に触れるだけで様々な事を認識出来る様になる。空気を伝って世界を旅するんだ。まだ見ていない世界が山程ある。僕はいつでも旅をしている。オレンジのガーベラの花言葉、「冒険心」を僕はどんな状況下でも忘れない様にしている。冒険っていうのはね、檻の中でも出来るのさ」
 ピンクのガーベラの花言葉を胸に、いつも彼は「感謝」を忘れない。白のガーベラの花言葉を心に、いつだって彼は「律儀」だった。
 そんな尊い赤鬼さんと私は一緒にいる事が多かった。いい事があっても嫌な事があっても、私は彼に報告した。一緒にコーヒーゼリーを食べた。お店のコーヒーゼリーに見せ掛けて私のコーヒーゼリーを食べて貰った事もある。赤鬼さんは「美味しい」と喜んで食べていたけど、彼に気を遣わせてしまった様で、私が食べたらとてつもなく苦くて食べられたものではなかった。
「私の好きな人はどんな前髪が好みかなぁ?」
 と、聞いた事がある。赤鬼さんは、
「くるん、くるんとした前髪かなぁ」
 と、彼の好みを教えてくれた。
 赤鬼さんはなんだって知っている。
 私は明日、この家を出される事になっている。親が勝手に決めた人と結ばれる事になっている。
 数日前から赤鬼さんがいない。
 それはなんでも知っている優しい赤鬼さんと、娘の事が大好きな親バカな両親の気遣いだったのだろう。

『ごめんなさい、赤鬼さんを

『心の底から好きになってしまった』

』。

 なんでも知ってる赤鬼さんが、教えてくれなかった訳を、意味もないのに、訳なんてないのに、いい理由なんかある筈ないのに、ずっとずっと考えてしまう。

 ガーベラの色、残りの一つ、『赤』のガーベラの花言葉は、「神秘」、

『燃える神秘の愛』。

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