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【掌編小説】プレゼント

 私は会いに行く。
 電車の車窓から夜空の星達を眺めていると、この電車内の窓枠や椅子がもう気にならないくらい星達の輝きに吸い込まれていく。外の暗闇とその中で燦然と輝く星々に視神経ごと飲み込まれる。私は次第に電車の振動を感じなくなっていった。ゴトンゴトン、ではなくスーッと流れていく。此処は意識の中だろうか? 大きな木が一本、暗がりの中で星々を装飾し、クリスマスツリーの様な喜ばしさを放っている。青々とした緑から小さな妖精がひょこと顔を出し、「彼へのプレゼントはあれでよかったんだよね?」と私に確認を取った。私は彼の好みなんてあまり知らないし、強いて言うなら青色が好きという事ぐらいしか情報がなかったから、「いいの、私センスないから考えたって仕方ないし」そういうと妖精は私はあなたのセンスで出来てるんだけどなぁ、と怒った。
 妖精さん、ごめんね。私はね、彼に『会えるだけでいいの』。それでいいの。あとね……。

 スーッと景色はいよいよ彼の元に向かう。

 私が彼に青を貰ってるの、『青い春』を。
 私も彼に喜んで貰いたい。
 彼に何かを与えられる人に私はなりたい。でも、そんなのいきなりはムリだから、彼の色に染まれる様に、私はまっさらな私で、彼にキャンバスを届けに行く。
 ごめんね、会いに行くお金しかなかったの。

 あなたが好きな、

『いつもの私がプレゼント』。

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