最近忙しい話
私は今、配信されている。
今後の私の人生に関わってきそうなので備忘録としてしたためることにする。
◆発端
年も明けてしばらくしたある日、Twitterのダイレクトメッセージに英語の長文が届いた。
まーたスパムか、と開いてみると少し違うようだった。
内容を要約するとこうである。
「こんにちは。私は××という企業で仕事をしているサム(仮名)です。
以前キャサリン(仮名)があなたと仕事をしたことがあるということで、ぜひ**というゲームの広告にコスプレして出てほしいのです」
キャサリン、誰???
何よりもまずこの感想だった。誰なんだ。
でも心当たりがかろうじて無いわけでもなかった。
これについては後述する。
私はいわゆるコスプレイヤーで、趣味としてまったりコスプレを楽しんでいる。
メッセージは続いている。
「そのため、まずはあなたの望む報酬を教えてください」
報酬──。
思わず反応してしまう。
何を隠そう、その時期私は非常に財政困難であった。毎月貯金額を決めているにもかかわらず手をつけてしまうほど。
特に浪費をしているわけでもないが、勤務日数によって給与が少ない月があり生活費や交遊費ですぐに消えてしまう。
そこに、言い値で報酬を提示しろと来たもんだからなかなかに魅力的だ。
だが世の中には美味い話はそうそう無い。
ましてや今までコスプレ関連で企業から依頼が来たことも無い。
詐欺の類かと疑り深くメッセージを読み返す。
彼のメッセージの中には、所属している企業のホームページURLと作ってほしい広告のプロジェクトとしてゲームサイトのURLが貼られていた。
フィッシングサイトやブラクラではないか注意を怠らず確認するが、私は後者のサイトには見覚えがあった。フォローしているニュースサイトで以前紹介されていた海外のゲームだ。
企業の方は初めて見るものだったが、フェイクではなく本物の会社のホームページだった。
「お声がけありがとうございます。参考に、他の人は報酬をどのくらいいただいているのでしょうか?相場があれば教えてください」
……最高に日和った返信をした。
『コスプレ インフルエンサー 報酬』で検索かけてみたがまったく相場がわからなかったのだ。
今考えたら良いように安い金額を提示されてもおかしくなかったぞ。
「まずはあなたの思う金額を教えてください」
ダメか…………………。
日和らせてはもらえなかった。
私は広告に詳しい知り合いに相談してみた。結果的に私が尻込みするような金額で交渉することになったが、すんなりOKしてもらえた。
◆困難
受諾したはいいものの、いくつかの困難が待ち受けていた。
・時差がある
彼の住んでいる国とは約7時間の時差があるので、リアルタイムでやりとりできる時間はかなり少ない。
確認事項があっても返信を翌日まで待たなければならないこともあり、テンポが悪い。
・やりとりは英語
当然会話は英語でやらなくてはならない。
中学英語レベルも怪しい私はGoogle翻訳に頼り切っている。
翻訳も完璧ではないしネイティブとは程遠いので、翻訳後の英語と再翻訳した日本語を読んで主語を直したり、怪しいフレーズは単体で言い回しを調べてネイティブなものに置き換えている。
それでも相手にとってはカチカチの教科書英語に見えているんだろうなあ。
目下のところ、言い回しを覚えることが目標だ。
逆に言えば英語が堪能でなくても海外の案件を受けることはできる証明にもなった。
・締め切りがタイト
依頼から2週間で動画を納品してほしいと言われた。
2週間?!
正直コスプレ舐めてんのかと思った。どんなに頑張っても衣装の準備間に合わなくない?
でもかろうじて用意できそうだったので間に合わせた。
・各提出書類も英語
契約書や報酬の請求書も含めて5枚くらい書いた。
ビジネス英語になると見覚えのない単語ばかりで、翻訳と反復横跳びを繰り返しながら記入。
あと海外だから当然書面ではなくPDF。
PC環境がないと詰むと思う。
・海外送金が受けられない
ようやく報酬支払いに漕ぎ着けたが、私は法人ではないのでメインバンクとして使っている口座が海外送金を受けられるタイプではなかった。
向こうからWISEでの送金を提案されたが日本円は非対応。
結局とあるサービスでの受け取りとなった。
そのサービスでは、アカウント開設から最大1ヶ月弱間お金を引き出せない可能性がある。
アカウントの取引実績が少ないと、信用に足るまでに時間を要するとのことだ。
私ももれなくこれに引っかかってしまったが、本人確認や電話番号登録を済ませたことで10日ほどで引き出し可能になった。
すぐお金が必要な人は大変だろうなこれ。
あと、手数料をかなり取られるので損した気分になる。
向こうが満額振り込んでも、振り込み時に手数料を引かれるので報酬に満たない金額でこちらの手元に来る。そして口座に引き出す際にも手数料を取られる。アコギな商売
ちなみに、初回の報酬支払いのあとに「こんなに報酬引かれてるよ〜〜〜手数料上乗せしていい?」という旨の内容を送ったらこれもOKしてもらえた。
寛大な国だ。土地の大きさ故なのか。
◆ハッピーハッピーハッピー
そんなこんなで報酬をようやく手にしたのは2回の依頼をこなした後のことだった。
苦労も相まって喜びもひとしお。
金額も日本のソーシャルワーキングサービスでの依頼額相場とは比べものにならないくらいよかった。
現在円安なのも関係していると思う。
実際に「あなたの申し出はこちらにとって有利です(直訳)」と言われた。もっと行けたか。
何よりも、彼らはクリエイティブな仕事について非常に敬意を払ってくれる。
とにかく褒める。アメイジング!グレイト!
なんかクリエイティブな仕事やってんの?グラフィックデザイナーだったりする?取引先に「日本にすっげーインフルエンサーがいてさ……動画広告、作らない?」って聞いて回ってるわ!ガハハ!
……みたいなことを毎回言ってくれる。
最初は私以外にもこれくらい作れる人はたくさんいるよ……と思っていたものの、次第にその気になってきて、「サンキュな!!私も光栄だよ!もっと頑張るから英語の案件もくれや!!」と言うまでになった。
大陸のポジティブパワーってすごい。
◆必要なもの
うまいこと乗せられて私はさらなるやる気を出した。
二回目の依頼で顔出しをするにあたって動画の合成が必要になったので、グリーンバックを購入。
CG合成などに使われる緑色の背景布である。
これは別にAmazonで買える安いやつでOK。
部屋の環境によっては布を張るためのポールをセットで買ってもいいだろう。
初めてナレーションをつけた時スマホ録音にしたのだが、音質が悪くかなりこもって聞こえたのが気になった。全体の完成度を下げてしまう。
散々迷った挙句、iPhoneにも繋げられるLightning端子アダプタが同梱されているUSBマイクを購入。
これがなかなか音質がいい!ノイキャンがついているのでスマホ録音とは雲泥の差。
安いマイクとLightning端子アダプタを買おうかとも思ったが、アダプタとの相性が悪いと録音が途切れることが多いとレビューがあったので思いきってこちらにしてみた。
「今回音質良くしてみたんだけど……マイクって経費に乗せられるかな………?」ってお願いしたらいいよ!乗せな!と返答が来た。最高すぎる。
これで録音も合成も思いのままになった。
編集ソフトはYouTube投稿をしていた頃に買ったものがあり、かなり融通が効くのでずっとそれを使用している。
いずれこういった案件を受けることになる人のために、今私が使っているツールの種類を列挙しておく。
広告ということは商用なので、商用可能なフォントや画像、音源を使用すること。
フリー素材でも音源などはクレジット表記を必須とするものがほとんど。表記を入れられない広告動画には使用できない。
私は編集ソフトが提供している音源や効果音を使用している。
◆思い当たる節
序盤で聞き覚えのないキャサリンが出てきた件について唯一思い当たるものと言えば、私が普段数多くコスプレしている作品関連だ。
海外のゲーム作品で根強いファンがいる。
公式アカウントはコスプレやファンアートを歓迎しており、よく拡散している。
私もその中に含まれていて何年かの付き合いになる。
ある日公式アカウントからメッセージが来たかと思うと、「アカウントで特集を組んでクリエイターを紹介しているのであなたのことも紹介したい。画像を作るからいくつか写真を提供してくれ」という内容だった。
その時のクリエイティブチームにキャサリンがいたのかもしれない。
クリエイティブを外部に委託することもあるし、見当違いということもないだろう。
というか、これ以外に本当に心当たりがない。
上記のエピソードについては公式がファンと距離が近いのもあって発生したものであり、日本産のコンテンツであればむしろレイヤーは公式に発見されることを恐れるものである。
もちろん紹介してもらったことはとても嬉しい。いまでも当時の公式の投稿はブックマークしてある。
大好きなコンテンツで自分の活動を認めてもらえるのは非常に稀有な体験だ。
話は逸れたが、こういった経験が今回のことに活きているような気がする。
大元の作品に敬意を払って謙虚に活動していきたいと思っている。
◆配信された話
作った広告が2つ承認された。
広告の効果が見られるようならまた依頼する、と言われてのんびり待つかと思っていた矢先。
Twitterのフォロワーが「もしかしてビレさんって広告出てる?」と投稿していた。
当たり前だが、実際に配信されているんだ!と実感が湧いて嬉しかった。
30秒間私を見せられてすまない。
しばらくしてサムから連絡があり、「前回の広告動画の効果がよかった!別バージョンを作ってくれ」と言われた。
効果がよかったというのはクリック数がよかったのかコンバージョン数がよかったのかどっちなんだろう……とか思いながら了承した。
今はその動画も仕上がって承認を待っている状態だ。
一連の依頼を受けてからというもの、アプリなどで挟まってくる広告の動画が気になってくるようになった。誰が出ているか、声の調子、台本は誰が作っていそうか、フォントは何を使っているかなど。
以前web広告の会社には勤めていたが、実際の広告作成には携わらなかった。
今こうしてみると私が本当にやりたかったのはこういったクリエイティブ方面のことなのかもしれない。
◆広告動画の構成の考え方
特に何か勉強したわけではなく経験則でなんとなく作っているだけなので、これからこういった仕事に手をつけていく人はあまり鵜呑みにせず参考程度に見てほしい。
・視聴者をキャッチする始めの1秒
広告は見る人の目を引いてナンボなので、まずは導入が最重要。
企業が行なっている決まり文句としては、
「3秒待って!」(ストレートすぎないか?)
「〇〇な人は見ないでください」(カリギュラ効果を狙っている)
「ちょっと!なんなのよ!」(セリフはなんでもよくて、突然インパクトのある理不尽な言葉を浴びせたりする)
「ア〜ン♡(本筋とは関係ないセンシティブなセリフやシーンを数秒挟み、興味を引く)(コンプレックス商材にありがち)」
……こうやって列挙してみるとあんまりいい見え方ではないけれど、実際に効果的なのである。
私はあんまり好きじゃないが。
私の場合は、
「〇〇(ユーザーにとって魅力的なポイント)って知ってる?(問いかけにすることで興味を引く)」
「(突然世界観のあるセリフをインパクトのある効果音と合わせて流す)」
など。
多少意味不明な導入でも、なんだこりゃ?と思わせて続きを視聴するようにさせる。
広告動画は閲覧秒数などで代理店に入る報酬発生額が変わったり評価に直結するのでなるべく長い時間を見せるのが必要になってくる。
つまり、ゲームアプリの広告で30秒間たっぷり飛ばせなくするのはそういうことなのだ。
・すぐにゲーム画面へ入る
視聴者を飽きさせないためにはダラダラ喋らずすぐゲーム画面を表示させること。
どんなものなのかが視覚的にわかりやすい。
システム画面よりプレイ画面をバンと見せる方が効果的。
・目玉部分
そのゲームの一押しの部分を掲載する。
レベルアップした後の爽快なプレイ感、美麗なグラフィック、魅力的なキャラデザインなど、目玉はそのコンテンツによって異なる。
どこをピックアップし、どれくらいの秒数を割くかは製作者次第だ。
起承転結の転にあたるので、他にもおや?と思わせる構成にすることで中弛みを防げる。
・まとめ
30秒の構成にするにあたり、ここは省略してもよい。
時間が余っている場合はまとめとしてポイントやゲーム画面をあらためて振り返る数秒間のまとめがあると印象づけやすい。
起承転まででゲーム名を出していない場合、ここでゲーム名を初めて出してもよい。
その場合、シンプルな画面構成でその名前やアイコンだけが目に入るようにする。
・CTA
行動喚起という意味のコールトゥアクションから来ているマーケティング用語で、ユーザーの次の行動を促す。
ゲーム広告で言うと、「今すぐダウンロード!」とか。
最後の1秒くらいでこのCTAをぶっこむ。
ここまでできっかり30秒に収めると相当気持ちがいい。
どんな広告にも使える基本的な構成だ。
商材によって3部構成や5部構成くらいまではできると思う。
YouTubeで流れる動画広告は長さがピンキリなのでこの限りではない。あんなに長いとシナリオを考えるのが大変そうだ。
◆これから
代理店であるサムの会社から依頼をおろしてもらっている状態なので、コンスタントに依頼があるかは不透明だ。
それゆえに安定した収入源になるとは言い難い。
だが、毎月の収入に不定期でもプラスになれば、一回の報酬が高いこともありかなり助かる。
サムの話では日本向けに広告を出す企業がまだ少ないらしく、今後は英語版の広告を作ってもらうことにもなるだろうとのことだった。
(でも本国のゲームをアジア人が拙い発音で紹介してるのって向こうの人にとってどうなんだ?)
収入はさることながら、私は一連の依頼を受けることで自分に対してまた一つ自信を持つことができた。
私は常に自分が無能であるとか、中途半端な存在であるとばかり思っていて、世の中の才能あふれる人と比べては憂鬱な思いに耽っていた。
でも今まで自分が楽しんでやってきたことがきっかけで新たな道が開けることもあると知り、新分野に対して経験を活かしながら楽しくチャレンジすることができて非常に充実している。
副業としては古着屋とライティングをやっていたが、古着屋に関しては売上が芳しくなく思い悩んでいた時期でもあったので、気分転換と資金補填としてジャストタイミングだった。
これでまた古着屋の方を「楽しみながら」営むことができる。
仕事が人生の全てではないが、なるべく楽しく仕事をしたいと思っている。
それは、web広告会社で勤務していた頃仕事が全然楽しくなくてただ生活費を稼ぐだけの苦痛なものだったからだ。
当時はストレスで心身共にダメージを受けてしまった。
お金を稼ぐことだけに集中すると、稼げなかった時にどうしても苦しい部分だけを受け取ることになってしまう。
仕事が楽しければお金が入らなくても楽しみを受け取ることができるのだ。
私のこれからの目標は、
やってみよう!試してみよう!
何事も面白く。
何か起きた時はここにしたためようと思う。
またお会いしましょう。
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