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血管の老化について〜生活習慣から始まるアンチエイジング〜

 


 地球を巡るバスの中で走り去る街並みを見ながらノートをぼーっと眺める。旅する3週間という時間の中に41の出会い。どれもとても貴重な学びがありました。そしてそのうち26は特に彩りが伺えました。驚くべきことに、ほとんどが初めでの出会いでした。この出会いに感謝致します。出会えたことは、奇跡だと思っています。また会える日を楽しみにしています。みんなで生き残りましょう。


*スタッフに医療者が多く、COVIDー19の影響で編集作業が大変なため今回は短いバージョンの記事になります。



最近の論文からピックアップ


「今日まで我々はがんについて99%を知らなかった」とBBCが報道。かなりセンセーショナルに捉えています。がんのゲノム解析はここ10年ちょっとで急速に発展しました。それは事実です。しかし、がんをどう制圧するかは別の問題だと思います。こういった研究は、がんの成り立ちの解析へと進んで行くことになります。社会にとってもっと重要なのは、すでにできてしまったガンを、どう診ていくかの方が重要です。その点では最後のFigureにあるテロメアの解析にデータは一見の価値があると思いました。しかしながら、すぐにどのガンはテロメアをターゲットにすればいいと簡単にはいかないのが、がん研究の道が遠い理由の一つです。




チャットインタビュー


中野;本日は、循環器内科医の梅津先生をお迎えして、お伝えします。

   よろしくお願いします。

梅津;平和台病院循環器科部長、心血管カテーテル治療室長の梅津拓史(ひろし)です。

中野;まずは、血管の老化(エイジング)についてお伺いしたいです。

梅津;血管の老化というと、ずばり動脈硬化です。

中野;高齢になってくると弱ってくる血管はどこですか?

梅津;私の印象では、まず心臓の栄養血管である冠動脈。次に脳のに血液を送る頸動脈です。その次は、下肢の大腿動脈。

中野;血管の太さがバラバラですね。理由はありますか?

梅津;理由はわかりません。冠動脈は細く、2〜3mmです。

中野;それぞれの血管で太さが違いますが、病態は似ていますか?

梅津;頸動脈と大腿動脈は似ていると思います。血管の動脈硬化から始まり、その後にプラーク形成が起こる点が似ています。

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中野;太さは違うが、起こっている病態は同じでしょうか?

梅津;そうですね。しかも、不可逆的(自然回復しない)な変化であることが多いです。

中野;もし同じことが起こるなら、細い血管の方が早くトラブルになることが多いんでしょうか?

梅津;細い、太いより部位によると思います。

中野;プラークができやすいという場所がありますか?その理由は?

梅津;場所はあります。血流が多い部位や血流が分かれる場所に多いです。乱流と言って、スムーズに血液が流れず滞留したりする場所でプラークを形成しやすいと言われています。

中野;部位で予防する方法って違いがありますか?

梅津;予防に違いはありません。

中野;つまり、血管の老化についてすべきことは全身についてほぼ一緒のことをやればいいということでしょうか?具体的にアドバイスはありますか?

梅津;そうです!脳卒中の予防と心臓病の予防でもやることは一緒です。もちろん、冠動脈疾患の予防もほぼ一緒です。

  具体的には、

  1 まず運動をしていない人は運動を始めること。

  2 食事を見直すこと。

中野;運動、どのようなメニューがありますか?私はBig3をやります。

梅津;それでもいいですが、最大筋力の20%以上の筋力を使う運動を行わないと筋力は衰えます。

   目安としては、階段の昇るくらいで15%くらいを使用します。

中野;階段を登るのも結構負担ありますよね。

梅津;はい。老化のために、下肢筋力は年々低下します。

中野;ああ、だからスクワットが推奨されるんですね。

梅津;そうです。そして、有酸素運動の方が効果があると言われています。

   先ほど、Big3をやると言われていましたが、short duration HIITが一番おすすめです。

中野;それは何でしょう?

梅津;HIITはHigh Intensity Interval Trainingの略です。

   short durationは短時間を表します。

   15~20秒ほど全力で自転車を漕いだりして、30~40秒休むか低負荷で自転車を漕ぎます。これを数セットやるのです。

中野;以前やったことがありますが、すごいきついですよね。

   5~6分のセットなのに断念しました。

梅津;全力でなくても8割くらいの力でいいとも言われます。

中野;これは筋トレよりいいんでしょうか?

梅津;筋トレと有酸素運動のいいとこ取りになります。

中野;Big3(前号を参照してください)ではダメでしょうか?

梅津;それでも良いですが、スタミナが上がりません。

中野;なるほど。私はスタミナ不足を懸念しています。

梅津;専門的には、最大酸素摂取量が重要になります。

   次は、食事についてですが。

   先生のお嫌いな納豆をお勧めします。

中野;げ、食べれません。

梅津;発酵性大豆食品(味噌や醤油でも良いです)に血圧を下げる効果があります。

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中野;塩分の摂取による逆効果はないんでしょうか?

梅津;味噌や醤油から日本人は塩分を摂取することが多いので、減塩のものにして欲しいです。腎臓に負担をかけることになりますので。

   納豆は、利用可能炭水化物(人が吸収できる糖質)が少ないので、糖質制限中のカロリー摂取としても有効な食材です。

中野;なるほど。私が好きなのはきな粉のパウダー、砂糖も入っておらず、黒胡麻が入っているものを摂ってます。

梅津;それでいいと思います。それと、大豆食品ってイソフラボン(女性ホルモン類似作用がある)が含まれている点が良いです。

中野;なるほど。じゃあ、更年期の女性にはいいですね。男性にも良いですか?

梅津;まさにそうです。日本人の女性データで、脳心血管疾患(脳卒中や冠動脈疾患)を予防するという事実があります。男性では、前立腺癌を予防する作用があります。

中野;男性ホルモンを抑制すると副作用などはないでしょうか?

梅津;副作用はありません。なので、男女ともに大豆発酵食品を食べて欲しいと思います。

中野;素晴らしい。では、最後に血管にはいろんな細胞があると思いますが、特に内皮細胞とか。そういった細胞に対する最近の知見で見るべきものがありますか?

梅津;血管は、基本的に3層構造ですが、近年は、一番内側の血管内皮細胞が重要と言われています。

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中野;これは、毛細血管にも含まれる構造ですね。

梅津;血管内皮細胞が血流を調整していることがわかって来ています。

中野;平滑筋ではないんですね。初めて聞きました。

梅津;はい。内皮細胞です。血小板の凝集等を調整するのと、血液凝固にも作用しています。実は、血管内皮細胞を集めると、肝臓よりも重量があります。

中野;すごい!体においていかに重要かがわかります。

梅津;体の中で、最大クラスの内分泌器官かもしれません。

中野;そうとも言えますね。内皮細胞のエイジングを遅らせるためには?

梅津;血流に関しては動脈硬化もそうですが、最初は血管内皮細胞の機能低下から始まります。そして、その血管内皮細胞機能は短期間で回復させることが可能です。

中野;希望が湧きます。

梅津;一言で表現すると、例えば地中海食と運動なんです。伝統的な日本食だと実はタンパク質不足になります。欧米食は、赤身肉の過剰摂取がよくありません。

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中野;良いレシピはありますか?

梅津;伝統的な日本食でも、ご飯を玄米食にして、大豆食品や魚でタンパク質を追加して意識していると地中海食に近くなります。

中野;動物性タンパク質は魚がいいんでしょうか?

梅津;タンパク質は魚と大豆食品が良いですね。あとは白身肉(鶏肉)は病気のリスクが上がりません。一番悪いのはハムはソーセージなどの加工肉です。

中野;たくさんの患者さんを診ている中から、経験的な示唆を教えていただきたいです。

梅津;血管内皮の話になると、動脈硬化の最初のステップが血管内皮機能の低下で、それを防ぐにはやっぱり食事と運動ということになります。

   経験的なことからだと、社交ダンスをされている患者さんがいまして、その方は高齢なのにとてもしっかりされていて、血管も綺麗でした。

   コミュニティを持つということも影響もあるかもしれません。

中野;社交性の重要性ですね。

梅津;こういった血流に関係することは、私の著書にも書いてあります。2月7日に発刊されました。

「血管の専門医が教える『血流』をよくする最高の習慣(総合法令出版)」です。

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中野;ぜひ勉強させて頂きます。今回は、ありがとうございました。

梅津;こちらこそ、ありがとうございました。




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cancerantiaging@gmail.com



スタッフ紹介


濵﨑清利(一人編集長?)

中野伊知郎と同じ脳神経外科医。専門は脳血管障害、いわゆる脳卒中の治療。

その他には、頭部外傷治療、微小血管減圧術(三叉神経痛、顔面痙攣などの治療)や体幹部悪性腫瘍の転移病巣を摘出するような手術も行う。また、頭蓋内の良性腫瘍も摘出する治療も可能。

最近は、薬を使わない認知症治療(ReCODE法)や認知症予防の講演会活動などを継続中。

「予防できる病気なのに、予防法を知らないのが現代日本人です。病気になる前に、病気のことをよく知り、将来の病気を予防してほしいという思いから、この活動に参加しています。」とのこと。

Facebookでは「脳科学と武術的身体操作を目指す研究会」を主宰し、Ameba blog『通りすがりの脳外科医のブログ』(https://ameblo.jp/gamer-hama/)も不定期にアップしている。また、「医師が発見した認知症バイバイ体操」(東邦出版)を出版もしている。



編集後期(中野伊知郎)

チャットインタビューを終えて:かつて私は日本にいた頃、数千件の脳血管撮影を行ったと思います。年齢が同じぐらいでも頸部から上の血管を詳しく見ていると、人によりその加齢度は様々だった印象です。タバコ、高血圧、糖尿病は言うに及ばず、様々な生活習慣の長年の積み重ねがその人のその時の血管の状態を決めているんだなと実感しました。今回、梅津先生も心臓のカテーテルを長年されてきて、生活習慣の重要性を実感されたのだろうと感じました。食事と運動が重要であることはこれまでの他の方々のインタビューでも何度も指摘されてきたことですが、それぞれのアドバイスは微妙に違います。今回、短時間の高負荷と低負荷を繰り返すプロトコールは私も以前ちょっと試したことがありますが、6−7分やるだけでもかなりキツく、断念しました。人それぞれに続けられるプロトコールを見つけるのが一番なんだろうと思います。そして血管内皮細胞の老化はリバーシブルであると言う話は初めて聞き、希望を持つことができました。非常に勇気付けられる話ではないでしょうか。今からでも遅くありません。ウェルビーイングを目指して今日から皆さん、始めましょう。

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