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21世紀の神話「地球は回る」

この曲の最初のメロディを助川久美子から初めて聴かされたとき、私の頭になぜかアーロ・ガスリーの名が即座に浮かんだ。60年代の社会混乱期に活躍したアメリカのフォークシンガーで、社会風刺や反戦色の強い歌を歌っていたと記憶している。アーサー・ペン監督の映画「アリスのレストラン」で同名の主題歌を歌っていたので、日本でも記憶している人がいるかもしれない。映画も、ベトナム戦争に対する批判色の強いものだった。

私はアーロ・ガスリーの曲をたいして聴いているわけではなかったが、即座に彼の名前を思い浮かべたのは、助川のメロディが60年代アメリカンフォークの匂いを漂わせていたからかもしれない。
夜、公園のベンチで彼女がギターを弾きながら口ずさむその旋律を聴いていたら、「地球は回る」というフレーズがすぐに浮かんできた。詞が出来上がる前にタイトルが決まったわけである。
そのAメロを録音して家に持って帰り、すぐに歌詞をつけた。
「地球は回る、ぼくらを乗せ、銀河の渦の中・・・」
同時に私は壮大な構想を練り始めた。曲調は60年代でも、詞の内容は21世紀初頭にふさわしいものにしたい。「大宇宙を旅する地球」という巨視的なイメージがまずやってきたので、次には「その地球上で日々繰り返される命のドラマ」という微視的なイメージをもってきたい・・・。

そのときの私の脳裡には、アメリカンフォークとはまったく毛色の違う、もう一つ別の曲のことがよぎっていた。
東芝EMIから「レスピラール」という癒し系のコンピレーション・アルバムが出ている。人気が高かったらしく、パートⅡ、パートⅢ、パートⅣと続いているが、そのパートⅣの中に、「フォールス・フライ」(嘘つき蝿)という曲がある。アイルランド音楽の大御所ドーナル・ラニーという人の曲らしいが、シンプルなメロディに神話的で哲学的な詞がついている。7歳くらいの少女と、その少女をたぶらかそうとする嘘つきのハエが、禅問答のような会話をする。

その歌詞の一部を翻訳すると、概ねこんな感じ・・・

ハエ「輪よりも丸いのは?」
少女「輪よりも丸いのは、地球」
ハエ「空よりも高いのは?」
少女「空よりも高いのは、天国」
ハエ「海よりも深いのは?」
少女「海よりも深いのは、地球」

すると、嘘つきのハエは、炎となって燃え上がり、少女はそのハエが悪魔の化身であることを知る・・・。

アイリッシュ・サウンドの特徴でもあるだろうが、同じ旋律が延々と繰り返される。それでも何度聴いても飽きない曲で、自分もいつかこの「フォールス・フライ」のような詞を書いてみたいと思っていた。このような禅問答形式なら、際限なく書くこともできるだろう。もちろん、「嘘つき蠅と少女の会話」というかたちにするわけにはいかないが・・・。
私の頭に浮かんだのは、母親と子どもの会話だった。ある動物の子どもが母親に何かを訊ね、母親がそれに答える。そんな形式なら、いくらでも書けそうだ。そして最後に人間の子どもと母親の会話をもってくる・・・。

大宇宙を旅する地球と、そこに暮らす様々な生き物たちのドラマ・・・そんな壮大なストーリーを描くには、それなりのメロディ構成が必要だ。
私は、すでに出来上がっているメロディをサビメロと考え、AメロとBメロを新たに作ってほしいと助川に注文を出した。「Aメロ+Bメロ」の構成を、サビメロでサンドイッチにする構想だ。
彼女にしてみれば、いわば「作詞をする都合上、メロディが足りないから、増やせ」と言われているようなものである。この注文に彼女は戸惑い、創作は難航した。おそらく、人のリクエストに応えて曲を作る、といった経験は初めてだったのだろう。
しかし、いつまでも宿題にしておくわけにもいかないからと、彼女は深夜、公園の脇に停めた私の車の中で、ギター片手に新しいメロディをひたすら紡いだ。私は、とにかく彼女の中からメロディが次から次へと出てくるに任せ、とりあえずそれをすべて録音しておくことにした。その録音を持って帰り、メロディのパッチワークをしたのである。当時は編集機材などもなく、MDベースでの切り貼り作業だった。

助川がランダムに産み落としたメロディを引き取り、私が一貫性のある曲に仕上げるときに唯一気をつけていることがある。それは「助川久美子らしさ」ということだ。どのようなフレーズが彼女らしいか、それともどこかで聴いたことのありそうなフレーズか、という基準で取捨選択していく。
彼女の紡ぐメロディは、ときにいい意味でこちらの期待を裏切ってくれることがある。言うならば、たった一音の使い方で、そこらへんに転がっているメロディを軽々と超えて、オリジナリティの輝きを放ってみせるのである。そしてもちろん、そのメロディが助川の声に乗っかったとき、その輝きは倍増する。
こうした共同作業による曲作りは、これが初めての試みだったかもしれない。

こうして8分を超える大作「地球は回る」は、車の中で産声をあげたのである。
人も動物もあらゆる命を乗せて今日も大宇宙を旅している「宇宙船地球号」の船内では、数え切れない命のドラマが日々くりかえされている。私たち人間は、そんな自分の居場所と旅の仲間たちをどれだけ大切にしているだろうか。そして、地球と運命を共にする人類の未来とは・・・?
宇宙船地球号にテーマソングがあるとしたら・・・。そんなイメージの曲に仕上がった。

この曲も、一度聴いた人を魅了する力を持っている。特に子を持つ母親には深く刺さるようだ。

「地球は回る」

地球は回る ぼくらを乗せ
銀河の渦の中
火と水と ひとつになれ
空と大地 ひとつになれ

カエルの子が つぶやく
どうして ぼくらは こんな
泥の中で 身をひそめ
生きているの
母ガエルが 答える
ここは 命のベッド
泥の中で 力の限り
歌え 高く!

キツネの子が つぶやく
どうして ぼくらは こんな
穴の中で 夜にまぎれ
生きているの
母ギツネが 答える
ここは 大地のヘソ
闇の中で 眼を開き
光 放て!

カモメの子が つぶやく
どうして ぼくらは こんな
崖の上で 海をみつめ
生きているの
母ガモメが 答える
ここは 世界の屋根
波の上で 地図を描き
飛べよ 高く!

未来の子が つぶやく
どうして ぼくらは こんな
汚れた場所で 息をこらし
生きているの
母親が 答える
ここは 知恵のゆりかご
汚れた場所から 楽園めざし
旅立て 遠く!

地球は回る ぼくらを乗せ
銀河の渦の中
火と水と ひとつになれ
空と大地 ひとつになれ

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