あんせむ

新参です、よろしくお願いします。 ご縁がありますように。

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  • あと、半年。(縦読みver.)

    『あと、半年。』縦読みver.です。 各記事、1番下の画像を開き、右へ順にスワイプしてお読みください。

  • あと、半年。

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薄青のグラス。(2)

 あれから一晩をオフィスで過ごし、次の日には家に帰ることができた。さらに翌日はちょうど休みだった。今週は保乃と出かけてみようかな。いや、絶対出かけよう。昨日感じた嫌な空気を払拭しておきたい。  「ただいま…」  「あー!おかえり〜!」  保乃はソファから立ち上がって、俺を出迎えに来てくれた。靴を脱ぐ俺に、「ん」と両手を広げて待っている。俺は靴を脱いで、保乃の胸に飛び込んだ。  「はぁ〜…」  保乃の腕の中で力が抜けていく。保乃の柔らかな感触に、このまま溶け込んでなくなってし

    • 薄青のグラス。(1)

       「ああクソ…こんなの終わらねえよ…」  山積みのファイルの隙間からスマホを探し出す。照明がほとんど落とされたオフィスに、ぼうっと明るい画面が浮かぶ。22時40分。今日も帰れないだろう。  大学を卒業し、就職して3年目。任される仕事も増えた。ここ最近は繁忙期で、彼女との時間はおろか、ろくな食事すらとれていない。それでも、大切な彼女のためと思ってなんとか毎日生きている。  「あ…」  俺は溜まった通知に気づいた。  『保乃: 通知13件』  「んー…なんだ」    『今日

      • +8

        あと、半年。(⑦ 縦読みver.)

        • +27

          あと、半年。(⑤〜⑥ 縦読みver.)

        薄青のグラス。(2)

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        • あと、半年。(縦読みver.)
          3本
        • あと、半年。
          7本

        記事

          +20

          あと、半年。(①〜④ 縦読みver. )

          あと、半年。(①〜④ 縦読みver. )

          +19

          あと、半年。(7)

           6月。  今日は久しぶりに、人と会う約束をしている。  靴の紐を締めて、彼女に向いて別れを言う。  「いってきます」  すっかり梅雨も明けて、じりじりと夏らしい陽が顔を覗かせるようになった。今日も高く青い空に、白い雲がぽつぽつ。やや暑い日差しが心地よい日だった。  「久しぶり〜、元気してた?」  彼女は、森田ひかる。玲の親友だった。玲がいなくなってから、何も手につかなくなった俺を助けてくれたのが彼女だった。  「久しぶり…まあね、おかげさまで」    今日は彼女のほ

          あと、半年。(7)

          あと、半年。(6)

           1月。  新たな年に浮かれた街の空気がしんと消え、ピンと張った空気が肌に痛い日だった。  「玲」  俺が手を握ると、彼女は辛そうな顔を笑顔で誤魔化しながら、こっちを向いた。    「ん……」  彼女は指で俺の手の甲を触って、手を握り返してきた。  「寂しくなかった…?」    「大丈夫…」  彼女は微笑んで言う。  「これ…こないだの写真」  俺は河原で撮った写真をポケットから取り出し、彼女に渡した。  「ありがと……やった〜…」  彼女はゆっくりとそれを受け取

          あと、半年。(6)

          あと、半年。(5)

           12月。  緩和治療のおかげもあって、彼女はあれから思いのほか元気に過ごしていた。体調が良い日には外出もできた。俺は毎晩彼女に会いに行き、日中も時間を見つけては彼女のところへ通った。休みの日は泊まり込み、朝から晩まで一日中一緒に過ごした。なにより、彼女といられる時間を1秒も逃したくなかった。  「今日天気いいなー」  「うん、気持ちい〜…」  病院近くの川沿いの遊歩道を歩く。つんと冷たく乾いた寒空に、冬の黄色い日差しが暖かい。小春日和、と小学校の先生が言ってたっけ。

          あと、半年。(5)

          あと、半年。(4)

           11月。  差し込む朝日の光で目を覚ました。  「おはよ…」  彼女の前髪を優しく分ける。  「…んん……」  彼女は目を閉じたまま眉を顰める。彼女は顔色が悪く、辛そうな顔をしていた。  「………痛い…?」  「……」  枕に顔を伏せて彼女は頷いた。俺は彼女の頭をそっと撫でる。  「…じゃあ、今日はお家にいよっか…?」  今日は隣の県の温泉に行く予定だった。宿もとってあるし、いろいろ行く場所の目星もつけてある。  「ん……」  嫌だと言うように、彼女は首を横に振る。  

          あと、半年。(4)

          あと、半年。(3)

          10月。  そこかしこの山が鮮やかに色づき始める頃。2人で少しだけフェリーに乗って、小旅行に来た。  「ついた〜」  フェリー乗り場を軽やかに歩きながら彼女が言う。  「あ!鹿!かわい〜」  鹿と戯れる彼女を見て、俺はカメラを構えた。パシャリとシャッターを切る。  「かーわいい……」  俺は撮った写真を見てつい呟いた。  「えへへ…私が?」  彼女が口元を覆って照れたように聞く。  「んー…?いや、鹿が」  「え〜?鹿に負けたの〜?」  彼女は不満そうに頰を膨らませた。

          あと、半年。(3)

          あと、半年。(2)

           9月。  晩夏とはいえ、まだまだ暑い。道ゆく人は浴衣に甚平、汗の滲んだTシャツ。やはり花火大会は賑やかだ。  「まだ花火大会あったんだな」  「ほかにもあったけど、どこも今日が今年ラストらしいよ?」  白い花柄の浴衣に身を包んだ彼女が、俺の手を握ったままこちらを見上げる。  「そりゃラッキー」  ベビーカステラの甘い匂いに、すれ違う人の持つビールの匂い。少し遠くから聞こえるお囃子と客寄せの大きな声、屋台の裏手の発電機の音。お祭り独特の雰囲気に、だんだんと酔わされていくよう

          あと、半年。(2)

          あと、半年。(1)

           あと半年。  「…だから、今のうちにいっぱいやりたいことしたいなーって思って」  「……」  俺は彼女の目を見て頷くのがやっとだった。その時は蝉が騒がしく鳴いていたはずなのに、何も聞こえなかったような気がする。俺は自分の奥歯を噛み砕くくらいに噛み締めたまま、彼女の手首を強く、優しく握っていた。  「えへへ…」  あと、半年。  8月。  灼けるようだった浜辺も、陽が落ちて薄暗くなった。砂は心地よい暖かさだけを残し、波は薄くなった夕日をチラチラと映すだけ。  「き

          あと、半年。(1)