あと、半年。(3)
10月。
そこかしこの山が鮮やかに色づき始める頃。2人で少しだけフェリーに乗って、小旅行に来た。
「ついた〜」
フェリー乗り場を軽やかに歩きながら彼女が言う。
「あ!鹿!かわい〜」
鹿と戯れる彼女を見て、俺はカメラを構えた。パシャリとシャッターを切る。
「かーわいい……」
俺は撮った写真を見てつい呟いた。
「えへへ…私が?」
彼女が口元を覆って照れたように聞く。
「んー…?いや、鹿が」
「え〜?鹿に負けたの〜?」
彼女は不満そうに頰を膨らませた。
「ははは、冗談だって」
「もう〜…ほら、早く大っきい鳥居見に行こ!」
「うん、行こ行こ」
手を繋ぎ、鳥居を目指す。その鳥居のある神社の参道は綺麗に整備されているが、綺麗な紅葉と穏やかな海が一望できる場所だった。
「わぁ……!綺麗〜…!」
彼女が感嘆の声を上げる。俺もそれに合わせるように頷いた。
「凄いね」
「うん、来てよかった〜」
彼女は海に浮かぶ鳥居を写真に撮る。俺はそんな彼女の背中をフレームに入れて写真に撮る。
「撮れた?」
「うん、撮れたよ」
まあ、君を撮ってたんだけどね。
「2人でも撮ろうよ」
「そだな」
2人で写真を撮る。シャッター音が鳴る度に、彼女が俺の肩に顔をつけて嬉しそうに笑う。
「じゃあ、ちょっと色々回ってみよっか?」
「うん!」
彼女が満面の笑みで頷く。俺は彼女に手を伸ばす。彼女はその手を優しく握ると、俺の手を引いて歩き出した。
外国人に頼まれて写真を撮ったり、名産の牡蠣を食べたり、波打ち際まで降りてみたり。時間はあっという間に過ぎていった。
「楽しかった〜!」
帰り道のフェリー乗り場で彼女が笑う。俺もそれに答えるように笑った。
「楽しかったな」
フェリーに乗り、柵に乗り出して話しながら海を眺める。海が夕日のオレンジを反射して、その周りの瑠璃色をに染まり始めていた。
「もう夕方か…早いや…」
「……うん」
彼女から小さな返事が聞こえたが、俺は水平線を真っ直ぐ見つめて続ける。
「なあ、今度はどこ行きたい?」
「ん〜…温泉とか…?」
「お、いいね…」
どこか、彼女の視線がずっと遠くを見ているような気がした。眼下に広がる海より、その向こうの陸地より、ずっと向こう。
俺は何となく、彼女を見つめた。
彼女の横顔はやはり綺麗で、その綺麗な髪が潮風に溶け込むように靡いていた。
あと、3ヶ月。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?