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あと、半年。

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あと、半年。(1)

あと、半年。(1)

 あと半年。

 「…だから、今のうちにいっぱいやりたいことしたいなーって思って」
 「……」
 俺は彼女の目を見て頷くのがやっとだった。その時は蝉が騒がしく鳴いていたはずなのに、何も聞こえなかったような気がする。俺は自分の奥歯を噛み砕くくらいに噛み締めたまま、彼女の手首を強く、優しく握っていた。

 「えへへ…」

 あと、半年。

 8月。

 灼けるようだった浜辺も、陽が落ちて薄暗くなった。

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あと、半年。(2)

あと、半年。(2)

 9月。

 晩夏とはいえ、まだまだ暑い。道ゆく人は浴衣に甚平、汗の滲んだTシャツ。やはり花火大会は賑やかだ。
 「まだ花火大会あったんだな」
 「ほかにもあったけど、どこも今日が今年ラストらしいよ?」
 白い花柄の浴衣に身を包んだ彼女が、俺の手を握ったままこちらを見上げる。
 「そりゃラッキー」
 ベビーカステラの甘い匂いに、すれ違う人の持つビールの匂い。少し遠くから聞こえるお囃子と客寄せの大き

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あと、半年。(3)

あと、半年。(3)

10月。

 そこかしこの山が鮮やかに色づき始める頃。2人で少しだけフェリーに乗って、小旅行に来た。

 「ついた〜」
 フェリー乗り場を軽やかに歩きながら彼女が言う。
 「あ!鹿!かわい〜」
 鹿と戯れる彼女を見て、俺はカメラを構えた。パシャリとシャッターを切る。
 「かーわいい……」
 俺は撮った写真を見てつい呟いた。
 「えへへ…私が?」
 彼女が口元を覆って照れたように聞く。
 「んー…?

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あと、半年。(4)

あと、半年。(4)

 11月。

 差し込む朝日の光で目を覚ました。
 「おはよ…」
 彼女の前髪を優しく分ける。
 「…んん……」
 彼女は目を閉じたまま眉を顰める。彼女は顔色が悪く、辛そうな顔をしていた。

 「………痛い…?」
 「……」
 枕に顔を伏せて彼女は頷いた。俺は彼女の頭をそっと撫でる。
 「…じゃあ、今日はお家にいよっか…?」
 今日は隣の県の温泉に行く予定だった。宿もとってあるし、いろいろ行く場所

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あと、半年。(5)

あと、半年。(5)

 12月。

 緩和治療のおかげもあって、彼女はあれから思いのほか元気に過ごしていた。体調が良い日には外出もできた。俺は毎晩彼女に会いに行き、日中も時間を見つけては彼女のところへ通った。休みの日は泊まり込み、朝から晩まで一日中一緒に過ごした。なにより、彼女といられる時間を1秒も逃したくなかった。

 「今日天気いいなー」
 「うん、気持ちい〜…」
 病院近くの川沿いの遊歩道を歩く。つんと冷たく乾い

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あと、半年。(6)

あと、半年。(6)

 1月。

 新たな年に浮かれた街の空気がしんと消え、ピンと張った空気が肌に痛い日だった。

 「玲」

 俺が手を握ると、彼女は辛そうな顔を笑顔で誤魔化しながら、こっちを向いた。
 
 「ん……」
 彼女は指で俺の手の甲を触って、手を握り返してきた。

 「寂しくなかった…?」
 
 「大丈夫…」
 彼女は微笑んで言う。

 「これ…こないだの写真」
 俺は河原で撮った写真をポケットから取り出し

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あと、半年。(7)

あと、半年。(7)

 6月。

 今日は久しぶりに、人と会う約束をしている。
 靴の紐を締めて、彼女に向いて別れを言う。

 「いってきます」

 すっかり梅雨も明けて、じりじりと夏らしい陽が顔を覗かせるようになった。今日も高く青い空に、白い雲がぽつぽつ。やや暑い日差しが心地よい日だった。

 「久しぶり〜、元気してた?」
 彼女は、森田ひかる。玲の親友だった。玲がいなくなってから、何も手につかなくなった俺を助けてく

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