あと、半年。(2)
9月。
晩夏とはいえ、まだまだ暑い。道ゆく人は浴衣に甚平、汗の滲んだTシャツ。やはり花火大会は賑やかだ。
「まだ花火大会あったんだな」
「ほかにもあったけど、どこも今日が今年ラストらしいよ?」
白い花柄の浴衣に身を包んだ彼女が、俺の手を握ったままこちらを見上げる。
「そりゃラッキー」
ベビーカステラの甘い匂いに、すれ違う人の持つビールの匂い。少し遠くから聞こえるお囃子と客寄せの大きな声、屋台の裏手の発電機の音。お祭り独特の雰囲気に、だんだんと酔わされていくような気分になる。
「なんか食べる?」
「うん!」
俺たちは一通り食べ歩いて、最後にりんご飴とたこ焼きを買った。もう日も落ちるので、人の多い土手に場所を見つけて、2人並んで座る。
「ん〜おいしー…」
彼女は綺麗な横長の目を細めて笑う。横顔がライトに照らされて、その柔らかな陰影が彼女の顔を際立たせた。たこ焼きを食べ終わる頃、辺りの客がざわつきはじめた。
「あ、始まるってさ」
「ん、もう?」
すっかり日は沈み、空が濃紺に染まっている。土手は人で埋め尽くされ、皆一様に川の方を見つめていた。
ひゅー……ドンッ!
「わぁ〜」
「おー」
最初の一発を皮切りに、次々と色とりどりの花火が打ち上がっていく。
「綺麗……」
「だな……」
赤、青、緑。様々な色の花火が上がるたびに、彼女の顔が色とりどりに照らされていく。その横顔を盗み見て、でも時々目が合って。
「来年も来ようね」
彼女がふと、口にした。
一瞬、時間が止まったような気がした。ついつい言ったのか、わざと言ったのか。色んな思考が頭を駆け巡って、返す言葉がすぐに見つからなかった。
「………うん……うん、そうだな」
「あ〜、今ちょっと躊躇したでしょ……」
屈託なく笑う彼女に俺は涙が込み上げてくる気がした。俺は彼女を抱き寄せてそれを隠した。彼女は俺の肩に頭を預けた。
「えへへ…」
しばらくして、花火を見つめている彼女の目を見た。大きな柳の花火が彼女の瞳に映っている。花火もいよいよ大詰めだろう。俺はそれに気づいて、思い出したように視線を花火に戻した。
あと、4ヶ月。
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