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「路上ひとりナンパ」の宇宙

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私はある日突然、新宿の路上で地味な女をナンパした。そこが、果てしない虚無の宇宙の入口だとは知らずに……。
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路上ひとりナンパ BEYOND

路上ひとりナンパ BEYOND

カオリとまだ会っていた。

といっても2か月に一度くらいだが。

最近、乱交パーティ狂いの彼氏と正式に付き合うことになったらしい。

何が「正式」なのか私にはよくわからないが、

相手が泣きながら「付き合ってほしい」と言ってきたとかなんとか。

結局、ふたりとも眠剤とか安定剤とかを処方されてるお似合いさんなのだ。

「最近やっと眠れるようになってきたんです」

「よかったね。新しい仕事合ってるんじ

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「路上ひとりナンパ」の宇宙【16】END

「路上ひとりナンパ」の宇宙【16】END

いわば、私とカオリは点だ。

点と点じゃない、ひとつの点。

春先のあの日、新宿の路上で偶然交わった点。

座標の上で、散発的に交わり、そのほかの接点はまるでない。

ふたつの点は日々別々に動いているわけだから、

トレースして、つないでみれば、

何らかの挙動が見えるかもしれない。

しかし、 点と点をつないでも何ら意味は探せない。

点と点からは、何も派生しない。

それが、「ひとりナンパ」だ

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CONVERSATION:SIDE C 密室

「お前、まだカップル喫茶行ってるのか?」

「い、行ってます」

「ほかの男とヤリまくってんだろ?」

「そんなことないです……」

「ウソ言うんじゃねーよ、チンポ何本もブチ込まれて、あんあん言ってんだろ?」

「言ってません……ああっ」

「ぶっといチンポぶち込まれてんだろ? おい、本当のこと言えよ」

「ああ……ぶっといおちんちん……挿れられてます……」

「お前、ふざけんなよ。誰がそんなこと

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CONVERSATION:SIDE B カオリ

「タカハシって人のこと話したっけ?」

「誰だっけ?」

「新宿でナンパしてきた人」

「ダメな人?」

「そうそう」

「まだ会ってたんだ」

「メール来るから」

「でもHヘタなんでしょ?」

「まーヘタじゃないけど……」

「カオリ、もうやめときなよ、そういうの。若くないんだから」

「わかってるけど……でも、彼氏以外はその人くらいだよ、今」

「あの彼氏も早く別れなよ」

「でも、やさしい

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CONVERSATION:SIDE A タカハシ

「新宿でナンパした女の話、したっけ?」

「なんすか、それ?」

「なんか、1年くらいちょこちょこヤってる女がいてさ」

「どこで声かけたんすか?」

「新宿の伊勢丹あたり」

「カフェとか?」

「昼間っからフツーに路上でナンパ」

「ひとりで?」

「ひとりで」

「ふわー、自分できないっすわ」

「いや、オレもはじめてよ、シラフで昼間っからそんなことしたの」

「タカハシさん、病んでますねー

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「路上ひとりナンパ」の宇宙【15】

「路上ひとりナンパ」の宇宙【15】

いま思えば、「ヤリ捨て」されるところだったのだ。

ハプニングバーで粗末なセックスをして、

愛想を尽かされたのだ。

自分で思い返してもあの夜のセックスはつまらなかったと思う。

なんか、ホント、教科書をなぞったような……。

カオリは「こりゃハズレだ」と思ったのだろう。

それで、1週間メールの返事がなかった。

しつこくメールを送った私に、カオリは同情で返事をくれた。

理解できてなかったの

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「路上ひとりナンパ」の宇宙【14】

「路上ひとりナンパ」の宇宙【14】

ぎこちないキスでスタートしたまではよかった。

いや、その先も、もうちょっといい感じだった。

こちらも二十余年アレしているわけで、23の小娘をどうにかするくらい

楽勝だと思っていた。

実際、反応も悪くなかった。

右手が茂みに差しかかったあたりで、私は「言葉責め」モードに入った。

ロクに経験もないのに……。

実際、マトモに「言葉責め」を経験したことなんて、ほんの数回だ。

件のハプニング

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「路上ひとりナンパ」の宇宙【13】

「路上ひとりナンパ」の宇宙【13】

結局、仕事が忙しくてタイミングが合わず、

最後にハプニングバーで会ってから1か月が経っていた。

その間、カオリとはチラホラとメールのやりとりをしていたが、

「言葉責め」のことが話題になることはなかった。

久々に会ったカオリは、少しやせたように見えた。

新宿の「希少部位を出す」的な看板の小さい焼肉屋で、

「サガリ」とか「ザブトン」みたいな記号の肉を食べた。

ユッケも食べた。

生肉をお

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「路上ひとりナンパ」の宇宙【12】

「路上ひとりナンパ」の宇宙【12】

「タカハシさんとは、しなくても関係が続く気がします」

前回、カオリが発した言葉。

裏を返せば、しなければ関係が終わる付き合いしか

してこなかったという悲鳴にも近いつぶやき。

その後、パッタリとメールの返信は止んでしまい、

1週間が経とうとしていた。

一線を越えてしまったことは、そんなに意味があったのか?

いや、そんなことないだろう。

終わった後、そそくさと帰ったのがよくなかったか…

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「路上ひとりナンパ」の宇宙【11】

「路上ひとりナンパ」の宇宙【11】

「カオリちゃんの1週間って、どーなってんの?」

「フツーです」

「いやいやそうじゃなくて、仕事の休みは何曜とか、彼氏とは週に何回会ってるとか、週末は友達とご飯行ってるとか……あるでしょ、なんか」

「仕事は水曜と土曜が定休です。日曜もやってる会社なので。彼とは週1、2回会ってますね。休みの日とか」

「で、毎回カップル喫茶行くの?」

「毎回じゃないですけど。月に2、3回ですかね」

「で、い

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「路上ひとりナンパ」の宇宙【10】

「路上ひとりナンパ」の宇宙【10】

つまり、『孤独のグルメ』なんだと思う。

自分ひとりで探した女を誰にも邪魔されずにダラダラと口説く。

地味だって、ブスだっていい。

いくらでも美化できる。

判断するのは自分だけだ。

なんなら、その「自分」さえ、別人格に入り込んだっていい。

誰も見てないんだから、キスを全力で拒まれたって気にならない。

これを言ったら身もフタもないが、相手はカオリじゃなくたっていいだろう。

いや、ウソだ

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「路上ひとりナンパ」の宇宙【9】

「路上ひとりナンパ」の宇宙【9】

ビミョーな空気のまま、私とカオリは新宿二丁目のレズバーに入った。

予想はしていたが、たいして歓迎されなかった。

その店は、かなりストイックなレズの皆さんに

ピュアな出会いの場を提供しているようだった。

カウンターに座り、ビールとウォッカトニックを頼む。

カオリはもうほとんど飲む気はないが、

一応、カクテルを頼んだほうがいいと踏んだ様子。

オーナーと思われる、両腕タトゥーだらけおネエさ

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「路上ひとりナンパ」の宇宙【8】

「路上ひとりナンパ」の宇宙【8】

おさらいしよう。

私がある日突然、路上で

「ひとりナンパ」をした地味な女カオリ。

趣味といえば単館系映画を観るくらいで、

派遣の事務仕事をしながら、

つまらない毎日を送っていると言っていた。

彼氏もいなくて、職場でも出会いの気配すらないとか。

確かに口数も少ないし、お世辞にもモテそうには見えない。

美大を出たが、就職活動がうまくいかず、現在の職業に。

週末は、仲間と借りている倉庫

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「路上ひとりナンパ」の宇宙【7】

「路上ひとりナンパ」の宇宙【7】

仕事でバタバタしているうちに、

前回カオリと会ってから1か月近く経とうとしていた。

私はその間に一度ソープに行った。

北海道出張があったもんで、なんとなく。

「キャバクラで意味なくダラダラいて2~3万取られるくらいなら、

ソープ行って1時間でスカッとして仕事に戻る(もしくは翌日に備える)のが一番」

というのが出張先での遊び方の持論だった。

道産子の自称女子大生はかわいかった、それなり

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