見出し画像

「空」

全くボロボロだったのだけど
口から出たのは違う言葉
「今日は本当にいい天気」

どれほど言葉を重くしようとも
バクテリアが子孫の私たちにとって
我々の軽さは変わらない

その存在、そのちっぽけさを
直視することに
私たちは耐えられない

だから
こんな春風が吹く日は
気をつけなければ
空に舞ってしまうだろう
戦争で灰になってしまった身体のように

そこで私たちは
自らを着飾り一つにまとめて
腰を落ち着かせてくれる
神妙な「真理」がほしくなる

必然、偶然、運命、自由、正義、
ぜんぶ中に突っ込んで
洒落た真理のカバンを引っ提げ
言葉を重くすれば
私たちは地上に引き留められて
飛ばされずに済むだろうと
祈っているのだ

ちょうどミツバチが
風に吹かれても
花の上でしゃんとしているように

外はうららか
川は煌めくのをやめない
そよ風は地上の誰よりも陽気
菜の花は咲き乱れて
黄色い世界が悲しくなびく
そしてみんなは空っぽ

私たちがこんなにも軽いのだから
空よ、やってしまって下さい

風に舞い上がった
にんげんも
真理も
ぜんぶ真っ青に

そんな春の陽気だ




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?