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シンガポール駐在の相続手続き② ~ 『金のある悲劇』

相続税申告手続きに関する第2回(写真は豪Perthにある世界最大1トン金貨、金の魔力に魅了される)。今回は相続財産を分ける際に必要な知識・心構えだ。先ずNHKドラマ『ハゲタカ』から好きな一節を引用しよう。

人生の悲劇は二つしかない。一つは金の無い悲劇。そして、もう一つは金のある悲劇。世の中は金だ。金が悲劇を生む。

相続は「金のある悲劇」の最たる例だ。前編で手続きの難易度をM&A業務になぞらえたが、相続では損得/勝ち負けを追いかけてはいけない。その後の家族関係に傷が付かないことを最優先すべきだ。
お金の絡む話を普段しない家族相手だからこそ相続の合意形成は難しいが、ビジネスと同様に腹を割って話す信頼感の醸成が大事で、そのためには色々と調べた知識を提供し、手の内を明かすことで家族の皆が同じ事実認識を持ち、同じ結論に至ってもらうことが重要だと思っている。

ただ親・兄弟の状況を踏まえた配分案を提示したつもりでも、皆、違うことを考えていることが多く、少しでも自分の取り分が少ないと思うと心情的に損した気がする。正解の無い世界だが、私の経験を皆様ご自身の状況に当てはめて、イメージしながら読んでみてほしい
(相続財産の把握、税控除に関する基本的な理解を前提に話を進めるので、その辺りがわからない人は前回のエントリーを見て欲しい)


相続財産の分割を巡る3つの変数

財産を「平等」に分けるのは難しい。現金は誰にとっても同じ価値を持つが、家・車などの価値は、実際に住む/使う人、もしくは売却する人、各々の用途・人生プランによって価値が変わってくる他、時間軸の切り方でも考え方は変わってくる。パッと理解し難いと思うので、私がぶち当たった難題として遺産分割における変数を3つご紹介しよう。

①資産の使い道(不動産の価値は所有者次第)

父は昔ながらの人間で、実家は長男である私が継ぐべきと考えていた。ただ私は実家に縛られるのを嫌い、海外を転々とする人間だ(今はシンガポールに住んでいるが、次は米国・欧州で仕事をしたいと考えている)。
そんな人間が無駄にデカい実家をもらってどうするか。売却すれば、大きな収入となるが、先祖代々が受け継ぐ家(+墓)は流石に売れない。そうすると、相続税として数百万円払い、更に今後、管理費用と固定資産税として毎年数十万円を支払う「負動産」となるわけだ。

つまり姉からみれば時価1億円弱の実家は、海外在住の私からみれば現在価値が▲1千万円と、途轍もない認識ギャップが生まれるわけだ。

②今後の人生プラン(親・兄弟の人生設計)

また私自身の生き方同様に、親・兄弟の人生プランも当然に変数となってくる。今は私以外の家族は実家に住んでいるが、母(以下オカン)は将来老人ホームに入りたい。姉は海の見える家に移住したい等々、夫々の人生プランから、欲しいものは変わっていくわけだ。
家族とはいえ、ここ20年ほど離れて暮らしていることから、初めて聞く話が多く、善かれと思って準備していたことが白紙になったりもした。。

③過去からの賃借(生前の事情を勘案するか)

①②に書いた将来の話に加えて、我々の議論を更に難しくしたのは過去、つまり生前の事情。過去の賃借のどこまでをある種の生前贈与対象として勘案するかだ。
具体的には、①留学費用・各種資金援助など、生前に父にして貰った援助(生前贈与と考えられることも出来る)、②反対に、生前父に対する援助(父の介護など面倒を看ていた場合は本来支払うべき介護費用をサポートしていたと考えることも出来る)、等が挙げられ、こうした過去の話が出てくると合意形成の難易度は更に上がる。

こうした様々な変数を一つずつ紐解いていく必要があると聞くと、難易度の高さについて徐々にイメージが湧いてきたのではないだろうか。

我が家の結論:最終的な分割案

上記論点以外にも細かい論点が多々あり紆余曲折あったが、私の戦略は、二次相続含めて相続税を出来る限り抑えること=家族が受け取る総和を最大化することを掲げ、そのためには資産の大部分を占める実家の所有権はオカンではなく子供に渡すという大方針をベースに細部を詰めていった。私にとっての最悪のシナリオは、実家だけを押し付けられることだったので、実家は資産ではなく、重荷であることを根気強く説明した。

①実家の分け方

先ず姉と私で実家を等分・分筆して相続する案を提示し、土地家屋調査士に依頼する段取りまで整えたが、最終的には庭・墓の管理などは長男である私に任せたいということで、実家の所有権を私に移すこととなった。
ただ、その決定は私が望んでいるものでは無いことを理解してもらい、不動産価値相当の資産を姉に提供することは出来ない旨、理解してもらった。

また私が実家を相続すると相当額の相続税が発生するものの、オカンに居住権を持ってもらう等、色々な工夫をすることで評価額を大幅に圧縮することが出来た(次回詳しく書く予定)。

②現金・有価証券の分け方

現金・有価証券は誰もが欲しいものだ。ただオカンが何歳まで生きて、いくら必要になるかはわからないし、大方針とした相続税の最小化に則って、配偶者特別控除を最大限活用。株など一部を姉が受ける以外、大部分をオカンに持ってもらうことにした。

振り返ると、税負担を小さくするという一貫した方針によって、家族で大きな喧嘩無く、なんとか期限内に分割案を固めることが出来た。
さて次は、納税額圧縮のための具体的な手法とともに、今から考え、準備出来ることを皆様に共有したい。


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