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舞台「フリムンシスターズ」を配信で見た感想

今回は「フリムンシスターズ」の感想です。

先に「もっとも大いなる愛へ」を見ているので、どちらを書こうか迷ったのですが、根本宗子さんの方はもう少しまとまったらにしようかなと。フリムンシスターズは最初チケットを取っていたのですが、諸般の事情で劇場に行ける日程がだめになったので、ちょうどWOWOWオンデマンドでの放送があり、見逃し配信もできるということだったので、休日を利用して配信を見ることにしました。

最近のWOWOWはこのコロナ禍の状況もあってか、積極的に演劇の配信を進めてくれるありがたいところです。もちろん演劇人は劇場に足を運んでほしいだろうし、客席が埋まらないと金銭的な実入りも厳しいという状況はあると思います。今回はWOWOWさんでの配信は、日頃から月額利用を払っている部分から少しでも関係各位にお金が渡ればいいなと。先日の「もっとも大いなる愛へ」はチケットを購入して見ましたが、そういうシステムでどれくらいの利益なのか?も含めてなんとか存続とか、映像なりの面白さが広がることを期待しています。

表題の作品ですが、松尾スズキさんの新作、主演は阿部サダヲさん、長澤まさみさん、秋山菜津子さんの三人。秋山菜津子さん演じるパニック障害で休業していた元大女優みつ子と、そこにマネージャーのように張り付く同士のゲイ・ヒデヨシの阿部サダヲさん、そしてコンビニで住み込みで働き、その店の店長と不倫している無給のバイト・ちひろの長澤まさみさん。一見、全く別の世界での登場人物が、コンビニで買い物しようとしたみつ子がお菓子のたべっ子どうぶつを万引することから、話が動き始めます。

やはり演技の幅の広さがすごいなあと感じたのは、主演三人でまず長澤まさみさん、コンビニ幽霊と客に名付けられるくらいの無気力さから、大好きなドラマの主役を演じていたみつ子と出会ってからは、生命力あふれるちひろを熱演。このあたりの落差を非常に生き生きと演じています。沖縄の霊能力者としての力という設定が、話を面白おかしく広げていき、しっかりとストーリーの着地につながっているのも松尾スズキさんの上手さ。

続いて秋山菜津子さん、存在感たっぷりで自分は昔、野田秀樹さんの「BEE」で見たときに迫力含めてすごい!っていう印象が強く残った女優さんです。今回も軽妙さと同時に、自分の妹を交通事故で怪我させて、ミュージカル女優としての夢を壊したことへの罪悪感とのバランスが見事。舞台の中でのコメディ要素もバランス良く演じて、まさに舞台女優という言葉がピッタリ。

阿部サダヲさんが今更という気もしますが、こういうキャラの立つ役柄はどう演じてもうまい。今のドラマでの落語家もうまいなあと思います。軽さがぴったり嵌る。むしろホームドラマでの普通のお父さんに違和感を感じますから(笑)今回のゲイの役も全く普通。これはいろいろと受け手側の変化もあって、昔はこういう役柄って、間違いなくそこにある特殊性みたいなものを感じさせる位置ですが、いまはそこは特殊ではない時代です。この舞台は様々な位置にいる人を描いていますが、そこに見えるいろいろな人の一部にすぎない。阿部サダヲさんが演じるヒデヨシはそういう一人ということも含めて。まあでも作品題名にもあるように、「狂った」という意味があるとしたら、それは「人が作るもの」ですが。

前半の進み方から、後半はちひろの霊能能力の開花とか、コンビニ店長の弟がすすめるテロ活動とか、みつ子の妹への謝罪など、一気にいろいろなことが動いていきます。で、正直解決していくこともありますが、LGBTの会合の件とか、そこでさらっというみつ子の自分の娘への言葉とか、そういう無茶苦茶なストーリーの中にも、しっかりと今の社会の中で語られている懸念は盛り込まれています。それが今の社会での認識であるという揶揄も含めてでしょう。

最後にきれいにすべてが解決しないけど、最後の歌の中も含めて、そういう混沌も含めて日常であり、いろいろな立場の人がいろいろと抱えて生きる日常がこれからも続いていくという描きは、個人的には好きです。

そして、この作品は劇場だったなあ、、、と。「キレイ」と同じくミュージカルということで、これは劇場で生で歌を聞く状況のほうが圧倒的に没入感を得られただろうなと。自分は配信で見ていて、やはりそこの差が大きかった。ストーリーを追ったり役者の演技の上手さは映像でも十分に味わうことができますが、こと歌の迫力に関しては、この作品の場合はとくにラストの「フリムンシスターズ」の歌の場面は一体感がある方が、面白さは増したのかも?と思っています。

ストーリーもいろいろと盛り込まれて面白いのですが、若干散漫な感じが残った印象があります。やや盛り込みすぎなのかな?長さもそれなりにあるので、過剰なのか?と言われると悩ましいところですが。登場人物のリンクがどんどんつながっていくので、このあたりの描き方から考えると、二回目をみるとまた違う印象かもしれませんが。

松尾スズキさんのミュージカルは「キレイ」とこの「フリムンシスターズ」の2つを見ていることになりますが、どちらも破天荒なストーリーの中にも、自分探しだったり生きていく意思だったりと、前向きなメッセージが印象的です。実際のストーリーの中にはもちろん下世話な話も入っているし、そのあたりは松尾スズキさんらしいところも随所に残しつつ、心地よさを残す作品を描いているのも面白いです。

さて、次は「マシーン日記」です。すごい作品を持ってきましたね、楽しみ。

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