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灰都とおり「西遊神怪録異聞」

◆作品紹介

夢から覚めて、まどろみながらさっきまで見ていた夢の感触を思い出そうとしているとき、現実よりも夢のほうが解像度が高いような気がし、何か悟ったような心地になるが、ベッドから降りて立ち上がり、生活を始めると、現実のほうがやはりはるかにクリアであることに気づき、奇妙な閉塞感に苛まれることがある――が、むろんその現実もまた夢である、という可能性は十分にありうる。『西遊記』という巨大で豊潤な物語の襞に分け入って、「虚構という帝国」からの逃走と「現実という外側」を目指す本作の登場人物たちもまた、「現実という外側」を模索するために「虚構という帝国」によって生成された、単なる物語=コードにすぎないのだろうか――本作は私たちにそう問いかける。メタフィクションは虚構の虚構性を指摘するとともに、それによって、私たちの現実そのものの虚構性を指摘する。それでも虚構のキャラクターたちは足掻き続ける。不思議なことに、避けがたく、確かなものとして、単なる虚構と切り捨てることのできない生の感覚がそこに宿っている。(編・樋口恭介)

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