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【報告記事】SF小説創作講座を開催しました!

 2024年1月13日に、15歳以下の方を対象にしたSF小説創作講座をオンラインにて開催しました。
 講師は、SF作家でanon press編集の樋口恭介が務め、参加者にはアイディア出しから小説製作に取り組んでもらうなど実践的な講座となりました。
 今回は、講座の内容の一部を記事としました。ぜひご一読ください(編・平大典)

資料スライド(pdf)は、以下からダウンロードできます。

樋口恭介(以下、樋口):樋口恭介です。私はSF小説を書いていて、ふだんはITコンサルタントも務めています。『構造素子』という小説や『未来は予測するものではなく創造するものである』という著書があり、『異常論文』という作品集の編集をしました。
 今日の講座を開催するにあたっての一言ですが、「SFを書くのは簡単だ! ただ書くだけなら……」ということを申し上げておきます。1時間という短い時間ですが、みなさんにはSF小説つくりにチャレンジしてもらいます。1時間後には、みなさんがSF作品が書けるようになればうれしいです!

講師紹介

■まず、みんなが思うSFを教えて
樋口:みなさんもふだんからいろんなSF作品に触れる機会があると思います。例えば、ドラエもんやワンピース、ベイマックスなんかのアニメ作品も多くあります。小説ではフィリップ・K・ディックグレッグ・イーガンなどが有名ですが、これらの作品は現実の世界にも大きく影響を与えていますね。

■SF小説とは”if”の物語のこと
樋口:まずSF小説について説明していきます。SF小説というのは「もし~だったら」というところからスタートします。「もしこういう人がいたら……」という場合は、人の仮定になります。人以外にも、場所や物などいろんなパターンが考えられます。SFで多いのは、「こういう技術があったら、どういうことが起こるだろう」というものです。
 また、「比喩(as if=まるで~よう)から考える」こともあります。比喩として存在するものを現実として描きます。「分岐(プログラミングのif文)から考える」こともあります。
 特にSF小説の場合は、ストーリーや文体などよりも、創作者が考える「もしも」が強固になること(徹底的に考えている)で成立している点が、通常の小説との違いだと思っています。話が進んでいるうちに、設定やルールがコロコロ変わってしまうと、SF小説として成立しないかもしれません。

■あなたの”if”を発表してみよう
樋口:早速ですが、みんなでまずは物語のタネになる”if”(もしもこうだったら……)を1分ほど考えてみましょう。私も一緒に考えてみたいと思います。

~1分経過、参加者から発表~

樋口:非常に興味ぶかいアイディアがたくさん出てきましたね。私が思いついたのは、「もしも雪の色が黒色だったら」です。
 それでは、今度はタネとして生まれたアイディアをもう少し深掘りしてみましょう。

■世界の”仕組み”を考えてみよう
樋口:先ほど、SF小説では、アイディアの強固さが必要と言いました。次は、出てきたアイディアを強固にするために、「どうしてそうなっているか」や「理由や背景や仕組み」を考えてみましょう。「人の体の仕組みが変わったら、どのように生活が変わる」、「ある技術がどうやって普及したのか」、「この世界では、どんな暮らしをしているか、考え方の人がいるか」などを考えていくと、SF小説としての強固さが出てきます。
 世界が”そのようにできている”という見方のことを”世界観”と言います。世界観をつくると、嘘が本当らしくなります(リアリティが出る)。
 それでは、今度は5分で、最初に出てきたアイディアを深堀りして考えてみましょう。

~5分経過、参加者から発表~

樋口:今度もみなさん、さまざまな「考え方」が出てきましたね。おもしろそうなアイディアがたくさん出てきて、とても刺激的です。
 「もしも雪の色が黒色だったら」というアイディアについて、私が考えた理由や起こりそうな出来事は、以下の通りです。

理由
・核戦争のあとで、空気がとても汚染されていて、雨とか雪がとても汚れているから
・だから、雨とか雪が降ると、人はみんな急いで家の中にひきこもる
・それによって、犬の散歩が難しくなる

■あなたの”if”を物語にしてみよう
樋口:最後にこれまで考えたみなさんの”if”を物語として書いてみましょう。200文字を目標にして、今度は15分程度でやってみます。
 SFの世界観がしっかりしている作品は、その世界で起こる「出来事」を並べていくだけで、物語になっていきます(作品としておもしろいかどうかは、別の問題)。
 私は『賭博黙示録カイジ』という作品が好きですが、あの作品は賭博という事柄を考え抜いてあって、一種のSFとなっています。「一生懸命深堀りして普通の人ではついていけないこと」をハードコアと言いますが、『賭博黙示録カイジ』は博打をハードコアにやりすぎて、SFの域に達しています。

~15分経過、参加者から発表~

樋口:みなさん素晴らしい作品がどんどんと出てきましたね。言語が使えなくなった世界でのバトルものや、読むと頭が爆発してしまうメタ小説(映画『スキャナー』みたいでおもしろい(!))、など個性的で面白かったです。
 テクニカルな作品もあって驚きました。冒頭にキャッチ―な出来事を書いておいてから、その後に技術的な背景や説明を続けていく作品がありました。冒頭から技術などの説明を始めるのではなく、「出来事」や「事件」を書いてから進めていくのは、読者を掴むテクニックの一つです。
 私が書いた即興の小説は以下になります。

 もう一週間も雪が降り続いている。両親は仕事に出かけたまま帰ってこれない。遠い海外に出張にいって、そのまま雪の中に閉じ込められたのだ。犬は窓の外を見ては、振り返ってうらめしそうな表情を浮かべている。僕だって同じ気持ちだ。そう、僕だって、同じ気持ちだった。僕は窓の向こうを見つめた。外には誰もいなかった。大人たちはみんなシェルターの中に入って出てこなかった。
 夜が来て、犬を外に出してやった。僕は念のためクローゼットから放射線遮断用防護スーツとガスマスクを探し出してきて、それを着けた。人間用だったけれど、犬にもそれを着けてやった。犬は誰もいない路上に飛び出て、空から降ってくる黒い雪の塊を一つひとつ追いかけるようにして遊んでいる。次から次へと降ってくる雪を身体に受けて、犬の身体は真っ黒に染まっている。犬は白い息を吐きながらとても喜んでいる。

樋口:時間があれば、今日書いた文章を追記してみてください。皆さんが書いた文章が、「作品」になっていくのではと思っています。

■まとめ
樋口:今日は一時間でしたが、みなさんからユニークなSF作品が生まれてきて、非常におもしろかったです。
 ぜひ、これからも作品づくりにチャレンジしてみてください。私たちが驚くようなSF小説が生まれてくれたらうれしいです。


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