見出し画像

還暦不行届 第九回 ひとつしかない男

リモートワークになってから久しいが、私の事務所では
毎週火曜日に全員が参加する「ナンナントウ会議」というのがある。

着物の部門に携わっている外部スタッフ含めた「百葉堂会議」
シュガルンのグッズやカレンダーの進行を決める「シュガルン会議」
などメンバーが違う会議がいくつかあるのだが、
統括して全体の進捗を確認したり相談したりするのがこの火曜日の会議だ。

先日この会議中に監督が乱入してきた。
しかもお腹丸出しで困り顔。
どうしたのか問うとベルトが見つからないという。

監督は習性があって脱いだものなどはいつも必ず置く場所が決まっている。
私からすると「そんなところに置かないでください」というような
適切ではない場所なのだが、監督の中ではそこが所定の位置なので仕方ない。

「いつもの場所に置いたはずなのに無い」

いつもの場所とは洗面所の洗面ボウルの横のほっそいスペースである。
普通なら歯ブラシや洗顔料などを置くようなその細長スペースに、
なぜか脱いだズボンとベルトをめっちゃ小さく畳んでおくのが
監督のお気に入りのスタイル。
ポッケの中の小銭や名刺入れなどもそのほっそいスペースにぎゅうぎゅうに並べている。
本当に意味がわからない。

ちゃんとした場所を用意してもどうしてもそうしてしまうので、
おそらく習性なのだと思い10年ほど前に改善を諦めた。

そんないつも必ず決まった場所におく習性を持つ監督のベルトが消えてしまった。
やりとりを聞いていたスタッフが「替えのベルトで行くしかないですね」
と言う。至極真っ当な意見だ。
しかし。

ここから先は

3,317字

安野モヨコ&庵野秀明夫婦のディープな日常を綴ったエッセイ漫画「監督不行届」の文章版である『還暦不行届』の、現在連載中のマンガ「後ハッピーマ…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?