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還暦不行届 第八回 庵野家最強の存在

監督はよく鼻歌を歌っているがそれは大抵オリジナルソングで
歌詞は大抵「サリーは可愛い」とかむにゃむにゃして言語になっていない何かだったりする。
ちなみにサリーとはうちの猫で、初代飼い猫庵野マイティジャック亡き後は
庵野家において最強の地位にいる。

どれほどに最強かというと、仕事に出かけようと支度を終えて
あとは出かけるだけ、という状態の監督を呼びつけて
「お腹を撫でろ!」と強要し毎回しっかり撫でさせているし
眠る時は監督の二つある枕のうちのフカフカな大きい方をベッドのようにして
監督の頭上でお眠りになっている。

そもそもサリーとは滅多に行かないペットショップで出会った。

ある年の12月。それもかなり年末に差し迫った頃だった。
体調を崩していたマイティジャックの療養食をうっかり切らしてしまい、
いつも買っている動物病院に行ったところ、いつもは必ずあるそのフードが無い。
今からアマゾンで頼んでも間に合わないので病院のアドバイスに従って、
車で5分ほどの場所にある大きなペットショップに買いに行った。
ジャックの療養食をお願いするとすぐ店員さんが倉庫に探しに行ってくれた。

初めて入る大きなペットショップは年末の人出で賑わっている。
たくさんの家族づれが子犬や子猫を抱っこしたりケージに張り付いて
中を見ている。

店員さんが戻るまで見るともなしに見ていると
小さな白いシャム猫がどうぞご自由にお抱きください、みたいな感じで
展示されていて通りゆく人にどんどん抱っこされてはボーとしていた。
どんな人に抱かれても
何か諦めているような、薄い反応しか見せない。

私は気になって自分も抱かせてもらうことにした。

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3,167字

安野モヨコ&庵野秀明夫婦のディープな日常を綴ったエッセイ漫画「監督不行届」の文章版である『還暦不行届』の、現在連載中のマンガ「後ハッピーマ…

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