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12月29日福の日

 大体毎年12月29日までに買い出しを終え、その夜からせかせかとおせちを作り始め、翌30日の朝も続き、その合間に大掃除をしたりと忙しくなる。

 その騒がしさから、もぉー!なんて怒りながらも年末を感じて絶妙に気持ちが浮ついていた私だった。少しずつ変化していくキッチンからの美味しそうな匂いやそうかと思えば腹ごなしなのか、朝から柿ピーを食べている母を見たり、アレがない!と慌てて買いに行く父だったり、『師走』を地で行く家である。

 それが、私の自慢であり憧れなのだと分かったのは結婚して最初のお正月だった。私は実家に29日ころから泊まり込み、母からおせち作りを教わり、大晦日に自宅に帰った。正月の三段重のおせちは、我が家に当たり前にあるものだったから、作るのが当たり前と思っていた。

 結局、結婚して8年経った今も年末には帰省して教えてもらいながらおせちを作る。

 私の正月。


「今年は帰らないでおくよ」

 私が伝えたのは昨日のことだった。子供の風邪が長引いていることや今年は休日が少ないこともあり、流行り風邪が言われる昨今、高齢の仲間入りした父母に万一があってはならないと断念したのだった。

 こうして、今年は例年の『私の正月』がなくなった。

 正直、泣きそうである。


 ここぞとばかりにいっそおせち作りを止めてしまおう!かと何となく思っているが、一方で何となくそれも決めきれない。

 理由は簡単で、やっぱりいつもの私の正月にしたいと言う私の希望と、そうは言っても子供たちはおせちを食べないと言うところ。そうなのだ、私の作ったおせち料理を平らげるのは大抵私である。夫も食べてはくれるが、本音としてはカレーがいいと言うところだろう。煮物や豆を好まない娘たちが喜んで食べることも残念ながらない。

 私だって子供の頃はくわいが苦手であった。百合根や紅白なますなどもどちらかと言えば苦手である。でも、くわいを食べれば私の芽が出るかもしれない。百合根のように幸せに歳を重ねたいし、紅白なますで平和を願ってもいい。もちろん全てを信じるわけではないけれど、願いながら食べるには十分な動機になる。結局、願い続けて毎年食べていた。

「ママ、お弁当作るの?」

 8歳の長女が聞く。お弁当とはお重のことか。

「うーん、みんなそんなに食べないからねぇ」

 私が考えて見せると、彼女も考えているようにしてから再び口を開いた。

「知ってる?『福』だよ」

 小さな子供に教えるように彼女は優しく言う。

「おせちには『福』が詰まっているんだって。その福を食べれば、私達も幸せになるんだよ」

 すでに幸せになったような優しい顔で笑った。私は何だか嬉しくなり、やっぱり作ろうかなと思う。

「よし、じゃあ一緒に作ろう。陽菜ちゃんは何が作りたい?」

 私が分かりやすく腕を捲くると、それを見た彼女も真似をした。

「陽菜は1番好きなかまぼこを作るの!」

 そう言われ、よし、紀文さんにお世話になるかとあっさり決めた。

 おせちを作っても作らなくても、願って食べたものはきっと『福』を呼び寄せる。


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【今日の記念日】
12月29日 福の日

お正月の食卓には欠かせないおせち料理。その中に使われるさまざまな水産練り製品などを製造・販売をする株式会社紀文食品が制定。正月行事本来の意味、謂われを知ることで福を招いてもらうのが目的。日付は、お正月前ということで12月、29で「ふく」と読む語呂合わから。この日には買い物や大掃除をして正月に備えようと提案している。


記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。

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