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5月13日 お父さんの日

 三石あらたは息を張りつめている。

 見つかっても問題ないが、出来れば見つからずにいたい。そんなことを思いながら、そして少しの笑いを堪えながらじっと見ている。

(あ、出てきた)

 彼の視線の先には、三石亜美がいる。

(あ、やっぱりランドセルが大きく見える)

 この4月に小学校に入学したばかりの亜美を見てしみじみ思う。

(ああ、ちょっとよろよろしている。お、大丈夫か?そっちはちょっと)

「危ないな」

 心の声はいつのまにか声に出る。
 そしてその声はどこか弾んでいるのだった。


 久々に平日の休みが取れた。せっかくだからと好きなことをしようと決めた。その一つが、娘の登下校を見ると言うものだった。

 朝も早く、夕方なんてもちろん帰宅出来ない平日のあらたにとって、娘の日常を垣間見るのはとても新鮮なのだった。

 そうして、今、彼女の下校を密かに見守っているのだが。

「あ!パパだ!」

 あっさり見つかる。

「何でパパがいるの?」

 純粋無垢な表情で聞かれ、あらたは困り笑いを見せた。

「パパはいつも亜美を見守っているんだよ」


 話をしつつ、気づけば亜美の手が自分の手に触れ自然と手をつないでいることに内心喜んだ。家までの10分程度の距離がこんなに愛しいものかとうっかり感動してしまう。

「おかえりー」

 そしてその10分は驚くほどにあっという間だった。
 玄関では理恵が出迎えてくれた。亜美は嬉しそうにパパがいたことを伝え始める。

「パパはいつも亜美のこと見守っているからねぇ」

 理恵もあらたと同じ台詞を伝え、それを聞く亜美はどこか嬉しそうである。


 夕飯はあらたの好きな豚肉のしょうが焼きだった。大きく口を開けて頬張るとじゅわっと口中に味が染み出ておいしい。

「パパ見て、刑事さん」

 TVをつけると、刑事ドラマが映った。

『この事件、長引きそうだな』

『最近、見張りが続いて寝不足ですよ』

 ベテラン刑事と新人刑事のやりとり。内容はいまいち分からないのに、なぜか見入っている。

「見張りってなに?」

 亜美が聞く。

「じーっとその人をずっと見ていることかな」

 あらたが答える。

「・・・・・・パパが今日、亜美を見ていたのも見張り?」

 どこか不安げにそう聞き、あらたも理恵も吹き出した。

「刑事さんたちの見張りとはまた違うよー。でも、まぁ、ずっと見ているってところは一緒かな」

 理恵がそう答えると、亜美は考えるそぶりを見せ、なぜか台所へ向かった。冷蔵庫をあけ、何かを取り出すと小走りで食卓に戻る。

「パパ、これ」

 手渡されたのはヤクルトだった。

「亜美のこといつも見守ってくれているでしょ。見張りと似ているんだから寝不足になっちゃう」

 ああ、なるほど。だからヤクルト1000なのね。

「ありがとう、でもパパは元気だから大丈夫だよ」

「パパ、ずっと元気で見守っていてね」

 かわいらしいお願いにきゅんと胸を掴まれた。

『よし!犯人を捕まえたぞ』

 ドラマでも犯人が捕まったようだ。

 この刑事さんにもヤクルトを渡してくれるような誰かはいるのだろうか。そんなことを考えながら、あらたは亜美を抱きしめた。

 何とも素敵な休日である。

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【今日の記念日】

5月13日 お父さんの日

毎日働いて一家の大黒柱として頑張っているお父さんに、月に1回、感謝の気持ちを表す日をと株式会社ヤクルト本社が制定。「人も地球も健康に」とコーポレートスローガンに掲げる同社の、お父さんが健康にとの願いが込められている。日付は13で「お父(10)さん(3)」の語呂合わせから毎月13日とした。


記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。

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