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3月22日 ラブラブサンドの日

「ラブラブサンドだ!」

 正治くんは、それを見るなりうれしそうに言った。

 普段どちらかと言うと照れ屋な彼がそんな風に可愛らしい名前を言うものだから私は驚いた。二人で訪れていたショッピングセンターの一角でご当地フェアをやっていて、何となくふらりと見ている時である。

「地元でよく食べたなぁ。今はこんな味が出てるのか。こっちで見つかるとは思わなかったから嬉しい」

 正治くんはそう言うと、そのラブラブサンドを手に取り、レジに向かう。

 季節は冬でクリスマスが近かった。

「ハイ、一つどうぞ」

 正治くんは早速買った袋を開けて、2つのうち1つを取り出して私に手渡した。暗がりでうっすら見えるピンク色のパンがかわいい。イルミネーションで飾られた町を見ながら、温かいカフェオレを飲もうとベンチに座ったのだ。

「おいしいね」

 二人で笑って顔を見合わせると、正治くんの妙に照れたような困ったような笑顔がイルミネーションで照らされていた。



「まさかあそこで振られるとは思わなかったけれど」

 私はあのときと同じようにベンチに座り、あのときと同じ、しっとりとしたラブラブサンドを手にしていた。目の前には早咲き桜が満開に近くなっている。時々、強めの風がその桜の花を大きく揺らしては花びらを流すように吹くのだった。

 今日のラブラブサンドもあの日と同じピンク色である。

「ごめん、て。あのとき、確かに雰囲気よかったからねぇ。でもさ、あそこで言わなきゃ言えなかったんだよ、僕」

 正治くんは茶色いパンを手に、やっぱり桜を見上げていた。私も彼も、あの時の同じ時間と場所を見ている。

「でも、あの時に振ってくれたから今があるのかも」

「そうなの?」

 強めの風が吹き、はらはらと散る桜の花びらが日差しのかけらのように光って舞う。私はパンに落ちた一枚の花びらを指先で摘み、パンを口で挟んだまま、花びらを左の手のひらに乗せた。

「だって、どうにも切なくて忘れられなかったからそれを原動力にしてここまできちゃったんだもん」

 私が正治くんの顔を見て言うと、嬉しそうな困ったような顔で彼は笑った。

 大学4年の冬に彼と一度お別れをした。理由は、彼が地元に戻って就職をするからだった。私ももう就職先が決まっており、それはやっぱり彼の地元の企業ではなかったので、そのときの私には彼について行くことができないでいたのだ。

 でもずっと、彼が好きだった。

 だから、彼の近くにいられるよう計画をして仕事を続けた。そして、やっと今年それが叶ったのだった。

「ありがとう」

 彼は優しく笑い、私はその顔がとても好きだった。

「あと、きっと半分くらいこのパンのせいであって、おかげかもしれない」

 私はラブラブサンドを一口かじってそう言った。彼も同じように口にする。

「1つの袋に入っている2つを分けたなら、それはもともと1つだから。きっと私たちは元通りになっただけかもね」

 私はそう言って、手のひらに乗せた桜を見る。風が吹きそれはふわり舞い上がる。隠れていた薬指の指輪に陽の光が当たって、私の手の中には光が溢れていた。
 彼は微笑み、私も笑う。

 明日はどれを分け合いっこしよう。


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【今日の記念日】

3月22日 ラブラブサンドの日

しっとりとした2枚の耳なし食パンでさまざまな具材をサンドし、一袋に2個入った人気商品の「ラブラブサンド」。その美味しさをより多くの人に知ってもらいたいと、北海道札幌市に本社を置き、パンや菓子の製造販売などを手がける日糧製パン株式会社が制定。日付は22日を「夫婦」と読む語呂合わせから、夫婦で「ラブラブサンド」をプレゼントして日頃の感謝の気持ちを表すとともに、ラブラブなカップルには「ラブラブサンド」を仲良く分け合い、将来夫婦になってほしいとの願いを込めて毎月22日とした。


記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。

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