8月6日 バルーンの日
「りったん!風船膨らませて!」
「いいよー。何色にする?」
私は袋の中からピンク色を取り出して口をつけた。おなかいっぱいに空気を吸い込み、ゆっくりと太く強く吐き出していく。ピンク色のゴムはみるみる膨れ上がり、ぼんやりとした頭では、このまま膨らませ続ければ私も飛んでいけるのではないかと思ってしまう。
「おっきいねー」
にこにこと嬉しそうに風船が出来るのを待っているのだ。めちゃくちゃ可愛い。いつもの事だが、膨らませずにはいられない。
「理沙、ありがとう、いつもいつも」
「膨らませるくらいどうってことないよ!私も楽しいし。あ、でもそろそろ帰るね」
時計を見ると17時を過ぎていた。私は立ち上がり、帰る支度を始める。
「このまま夕飯も食べればいいのに」
「お昼ごはん、ご馳走様でした。荷解きもあるから今日は帰るよ。ありがとう」
近くに寄ってきた姪っ子の頭を撫でて私は言った。
今日、私は姉の家の近くに引っ越してきた。徒歩で10分くらいだろうか。初めての一人暮らし、知らない街に家族が住んでいるのは何とも心強いものである。
「りったん、また風船膨らませてね」
「いいよー。でも今度は夏帆がりったんに風船ちょうだいよ」
私が意地悪にそう言うと、彼女もまたニヤリと笑う。
「すんごく可愛い風船あげるね」
「ただいま」
一応ひとり呟いてみるが、もちろん誰からも何も返ってこないので何とも静かに響く。姪っ子や姉と遊んだ後だからか、やっぱりどこか寂しい。実家にいた時でさえ、姪っ子ほど明るくはないけれど、夕方には父と母がいたのでやっぱり人気があった。それもないこの部屋はやっぱり少し寂しい。
部屋の扉を開けると、ガランとした空間が広がる。部屋の隅にはダンボールが積み上げられ、順番に開封されるのを待っている。けれどその要望には応えず、もう一方の隅に置いたスーツケースの中身を取り出す。すぐに使うものだけをこの中に入れているのだ。コップや箸、明日の出勤に着ていくものや化粧道具など。雑多に入れたので1つずつ取り出していく。
全部、自分でやるのだなぁ。
何となくため息をつく。
『ピンポン』
インターホンを見ると宅急便のようだ。少々ドキドキしながら、チェーンをしたまま玄関のドアを開けた。
「送り主は誰になっていますか」
「えっと、山崎夏帆さんですね。ギフトのようです」
夏帆から?驚きつつも宅急便の人は本物のようなのでチェーンを外してそれを受け取った。いやに縦に長い、そして大きいし、ダンボールなのにおしゃれである。さっき会ったばかりだと言うのに、夏帆と言うか姉は、一体何を贈ってくれたのだ。
丁寧に箱を開けて中を見る。
驚いた。
バルーンだ。
綺麗なドライフラワーに大きなハートの風船が2つ、『congratulations』『on your move』とある。丸い風船も2つあるが、その中に小さな風船も入っている。なんとも可愛らしい。夏帆の言っていたことが分かった。
いつも膨らましてばかりいる風船、もらうとこんなにも心弾むものなのか。ゆらゆらと揺れるそれが何だか姪っ子の笑顔に思えて、急に部屋中が暖かくなった。
大人に贈る風船も胸ときめくものである。
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【今日の記念日】
8月6日 バルーンの日
岡山県岡山市でバルーンを通じた電報や記念日のお祝い、イベントでのバルーン装飾などを手がける株式会社アップビートバルーンが制定。普段はなかなか言葉にして伝えることができない人へバルーンを使ってメッセージを届け、笑顔あふれる一日にしたいとの願いが込められている。日付は8と6で「バ(8)ルー(6)ン」の語呂合わせから。
記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。
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