見出し画像

6月12日 育児の日

「毎日ドリルを、たった1ページで良いからさ、お勉強の習慣をつけよう」

 この春に小学生になった娘に、私はそう言った。

 そこから2ヶ月経った今、ドリルはなんと綺麗なことだろう。


「ほら、ちょっとやってあるじゃん」

 なぜかドヤ顔で言う長女。10ページに満たない学習履歴を見せてなぜに自慢げなのだ。

「やったところは素晴らしいけど、本当だったらもうこのドリル終わっているんだよね」

 私がそう言うと、顎がはずれたアニメのキャラクターみたいな顔をして驚いたように見せる。ちょけているのだ。私は少しだけ口を結ぶ。そして息を吐き、再び口を開いた。

「お勉強ができると大きな武器になるんだよ」

 長女は何かを考えるようなそぶりを見せ、答える。

「私は誰かと戦うの?」

 エイヤートー!と言って次女に向かってちょっかいをかけるが、お絵かき中の次女はそれをいやがる。「やーめーて!」と言って、最近よくする『鼻の下を伸ばしてみせる威嚇』を行う。一体誰のまねをしているのだ。

「そうじゃないけど、でもテストや大人になって働くときにきっと役に立つ。そう言う意味で武器になるって言ったのよ」

 なるほどー!などとやっぱりちょけ続ける彼女に、何とかため息を押さえつつ、私は続ける。

「たくさんやらなくてもいいから、毎日続けることが大事なの」

「ママは?ママもしたの?」

 純粋な表情で聞かれ、私は一瞬たじろいだ。

 私はうまく習慣化出来なかった方である。だから、つい言葉に詰まってしまった。

 極力、自分がしないことは子供に強制しない。そうありたいと思いつつ、私は日々を過ごしている。だって、言うなら自分もやってよ、などと子供心に思ってしまうから。

 だから本来であれば自分の出来なかった、毎日の勉強習慣と言うのもやらせるものではないのかも知れない。でも、今のうちから歯磨きのように当たり前の勉強習慣をつけてあげられるのなら、これから先の彼女の負担が減ると思い彼女に提案したのだった。

「ママは出来なかったんだよ」

 残念そうな表情をつけ、私は答えた。すると、思いがけない答えが返ってきた。

「ママ、今は幸せ?」

 なぜここで幸せを問われるのか。やっぱりこれも一瞬驚くが、そこは自信を持って答えられる質問である。

「幸せだよ!」

 すると彼女はにっこりと微笑むと、また何か考えるそぶりを見せる

「じゃあ毎日お勉強しなくても幸せになれるってことでしょ」

 痛いところを突かれも、もう3度目の『ぐぬぬ』である。

「幸せだけど、きっとお勉強する力がついていたらもっと幸せになったと思うよ」

 無理矢理の返事をすると、彼女は納得したようなしないような顔をした。

「じゃあ、ママもこれから毎日やろう。お勉強でもお仕事でもいいよ。特別ね、ママは何でもいいよ」

 妙な提案を受けたものである。

 もう37歳になる私にこれから成長させてくれると言うのだろうか。けれど不思議なものでそう言われると(言われていないが)と急に胸がわくわくする。

「よし!ママも毎日1つやろう」

 私はそう言って二人をぎゅっと抱きしめた。何をするの?と問う長女に、私は答える。

「必ず毎日1回はあなた達を抱きしめる」

 育児は育自とはよく言ったものだ。育児が続く限り、私も何かと成長するだろう。

 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 

【今日の記念日】

6月12日 育児の日

社会全体で子育てについて考え、地域が一体になって子育てしやすい環境づくりに取り組むきっかけの日にと、兵庫県神戸市の株式会社神戸新聞社が制定。日付は「育(いく=1)児(じ=2)」と読む語呂合わせから毎月12日とした。株式会社神戸新聞社は第9号「記念日文化功労賞」を受賞。


記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?