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2月27日Pokémon Day

(※いつもより長いです。2400字程度)

「おー!久しぶり!」

 そう言って後ろから肩を叩いたのは横山将だった。

「横じゃーん!今来たの?変わってないなぁ」

 きりっと上がった眉尻に、若干たれ気味の目元が特徴的だったのでそこが変わっていない横山将を見て、近藤太一はすぐに分かった。その後も続々と懐かしい顔ぶれが部屋に集まり、その顔を見てそれが誰なのかをすぐに思い出せるせいか、まさかこれが24年ぶりの集まりだとは思えない。

「いや、本当に久しぶりだよね」

 山口令が太一の横に座って言う。懐かしいねとそのまた横の斉藤弘幸が言い、向かいの関根律がビールを開けた。

「中学一緒だったやつも多いから実質20年ぶりくらいか?それにしても久々だよな」

 空のグラスに適当にビールを注ぎ、受け取った根本頼子が笑う。

「みんなおじさんとおばさんになったよねぇ」

「そりゃそうだよ、だってもう36歳だよ」

 太一が言い、ぐいっとビールを飲み干す。

「小林先生の古希祝いだからね、その分うちらも年を取っているんだ。なんか信じられないけど!」

 令が言うと、律はきょろきょろとあたりを見渡す。視線の奥には本日の主役である小林先生が座っており、今は別のクラスメイトと歓談中である。

「それにしても、やっぱりなかなか人数集まらなかったね」

「24年も経ってればそりゃあなぁ。32人全員は無理だろう。連絡つかなかった奴も多いだろうし。結果14人も集まれば多い方じゃないのか」

 弘幸が言い、律は指で数え始める。

「13、14・・・・・・あ!牧本!」

 いつの間に自分の向かいに牧本ひさしがいたのか。

「よっ」 

 右手を軽くあげて見せ挨拶をした。小学校の時とはどこか違う明るい表情に皆は驚く。昔の彼は長めの前髪が目に掛かりそうでそれを手で払う仕草が癖だった。特別誰かと仲良く一緒に居ると言うこともなくえ、けれど皆牧本が好きだった。あまり多くを話さない彼なのに、時々ぽつりと口に出す一言や、急に見せる手品など、興味深く思わせたのだった。

 他の面々はそれぞれ数年に一度定期的になど何人かで会うことがある。けれどこの牧本だけはやはり誰とも連絡を取り合っていないようだった。

「すげー!牧本に会えるとは。元気だったか?地元に戻っているのか?今仕事は何してるの?」

 太一が矢継ぎ早に質問をすると、牧本はふっと一息吐き、控えめな声で一言だけ答えた。

「マジシャン」

 そのわずか一言でこのテーブルは一瞬静まった。そしてすぐに息を吹き返すようにどっと声が溢れた。

「えー!マジシャンかよーすごいな!!」

 律が言い、他も同じように驚いて見せた。

「牧本、昔から手品上手だったもんなぁ。手品と言うかもうあれは超能力か」

 弘幸が言う。牧本が行っていたのは手品もあるが、例えば人が書いた物を隠して透視をして当てると言うようなテレビで見る超能力のようなものもあり、どれもクラスメイトを驚かせた。当時を思い出すように皆が沸く。その中で、令が何かを思い出したように牧本に聞いた。

「牧本さ、ポケモンって何好きだったっけ?」

「え、どうしたの、急に」

 頼子が言い、皆が顔を合わせる。律は牧本に聞いたのだが、なぜか皆自分の好きなポケモンを同時に思い出していた。牧本がぽつりと言う。

「俺はユンゲラーが好きだよ」

 ポケットモンスターの赤と緑が発売された当時、彼らは皆小学6年生の同じクラスだった。それはもう大人気で男女関係なくクラスのほとんどがが楽しんでいたのだった。そしてポケモンをプレイする者はすべからく自分のお気に入りポケモンを1体決めていた。

 牧本はユンゲラーが好きだよと言った。過去形ではなく言ったのは、きっと牧本は今もなおユンゲラーが好きなのだろう。

「そうだよな!やっぱり!俺覚えてたんだよ、牧本がユンゲラー好きなの。ってことはさ、牧本、ユンゲラーになったんじゃん」

 令がそう言うと、皆が感嘆の声を上げる。すると今度は牧本こそ驚いた顔をして口を開いた。

「何言ってるんだよ。皆そうだろう」

 そう言って驚く皆の顔を一人ずつ見ながら続けた。

「律はメタモンが好きだったよね、で今は便利屋だろう。何にでも擬態出来るメタモンみたいだ。令はギャラドスが好きで、水道管理会社勤務、ピカチュウ好きの頼子は大手電力会社、弘幸は実家の花屋を継いだし、太一は消防士」

 自分の職業をなぜ牧本が知っているのかと皆驚いていたが、それと同時に、自分の仕事をポケモンと結びつけて考えたことがなく、そこにも衝撃を受けた。

「た、確かに。俺ギャラドス好きだし水道管理やってるわ」

 令が言い、口々に自分もそうだと言う。

「なんだ、皆意識的になったのかと思ったよ。ほら、6年のころさ、ポケモンごっこみたいにして遊んでたし」

 牧本はそう言って笑った。

「ああ、みんな好きなポケモンになったんだなって思って、俺、ホクホクしてたんだよね、今日来るの」

「そんなこと、考えてもみなかったよ」

 頼子がそう言い、うっすらと涙を浮かべた。

「結構仕事しんどいこと多いんだよね。でもなんかやめられなくて。何かが引っかかってて。でも、そうか、私ピカチュウになったんだなぁ。だから、電気が好きだからやめられないのね、きっと」

 律もうなづきながら同調した。

「そう、時々しんどいしつらいことも多いんだけど、なんかやめられないんだよ。結局楽しいが上回るんだけど、そうだね、俺もメタモンだからこれが天職なのかもしれない、便利屋が」

 それぞれ、言われてみればと頭の中で思い、どこか胸が熱くなる。

「俺たち皆、なりたかったポケモンになれたんだ」

 令が言い、牧本が頷く。

「俺、リザードン好きだけど、火を消す方の仕事だけどな」

 すると弘幸も続く。

「俺なんか家業だからなったも何もないけどな。まぁ、草花好きだけど」

 結局皆、24年経っても子供のままなのだなと笑った。

「あ、ところで牧本。何で話してもないのに俺たちの仕事が分かったんだよ」

 太一がそう言うと、牧本はまたふっと一息吐いて言う。

「それはほら、俺、念力ポケモンだからね」


 子供も、子供だった大人も、いつまでも皆ポケモンが好きなのだ。

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【今日の記念日】
2月27日 Pokémon Day

「ポケットモンスター」(通称・ポケモン)のブランドマネジメントを行う株式会社ポケモンが制定。「ポケモン」の最初のゲームソフトである『ポケットモンスター 赤・緑』が発売されたのが1996年2月27日。この日はゲームから生まれた「ポケモン」にとって記念すべき始まりの日であることから、海外のファンの間では「Pokémon Day」と呼ばれ大切にされている。日本の「ポケモン」ファンにもこの特別な日を知ってもらい、末永く「ポケモン」を愛してもらうのが目的。


記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。

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