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私が「本当に」やりたいことと向き合うStory② <欠勤理由探しと新幹線での涙の話>


1年分の涙を流したんじゃないかとさえ思った夜が明けた。
思っていたよりも目は腫れていなかった。

新幹線の時刻を調べた後、上司への電話の内容を考えた。
考えたけど、思いつかない。
そりゃそうだ、今まで考えたことなかったんだもん。

Googleで「会社 休む 理由」で検索。
今の時代、みんな何でもGoogle先生に聞いてしまうんだと思う。
いろんなサイトで欠勤理由の例が載っていた。意外とみんなも休む理由を考えるのに苦労しているのね、と思った。

「頭痛がひどいので。」「熱があるので。」
抗体検査を受けに行かないといけない症状だから、後々面倒になりそう。
「家族が体調不良のため。」
そもそも一人暮らしだから使えない。
「精神的にしんどくて。」
本当のことだけど、逆に上司や職場の人に詮索されたり心配をかけてしまいそう。

結局私が選んだ欠勤理由は、「体調が優れないため。」
体調不良って、体の調子が悪いことをイメージしがちだが、
心の調子が悪い時も「体調不良」と言えるらしい。
なんとも便利な言葉だと思ってしまった。

アドレス帳にある直属の上司の名前を押す前に、何度もシミュレーションをする。
かけるまでに数十分を要した。
しんどいことは事実なのに、どうしてこんなに悪いことをしている感覚になるんだろう。

理由はある。
勤務先が個別学習塾なので、社員が一人欠けるとその分の授業のコマを他の人が担当しないといけなくなる。
特に私たちの教室の場合、教室が開校したばかりでアルバイトスタッフさんも1人しかいない状況。ほとんどの授業を新卒の私が受け持っていた。
いわゆる「連コマ&フルコマ」ってやつだ。
そんな状況で私が休んで、教室が回るんだろうか。上司の負担が大きくなるのは目に見えていた。だから休みたいなんて言えなかった。

でも今は緊急事態だ。自分を守ることが先決だ。
覚悟を決めて電話のコールを鳴らした。

上司が出る。事情を説明する。
訝しげな声色でありつつも、上司は体調を気遣ってくれた。
ちょっとだけ、安心した。

ありがたいことに2日間のお休みをいただいた。
電話を切った後、ちゃんと言えたという安堵と少しの興奮で、なんだかじっとしていられず、訳もなく部屋をうろうろした。


最低限の荷物だけをだらだらと詰め込む。
GWに旅行へ行く時に新調したmozのキャリーケース。
あの時はウキウキしながら転がしていたのにな。

新幹線に乗り込む。
平日のお昼間だから、中はガラガラだった。

2人掛けの席の窓側に座る。
いつもは新幹線に乗るとすぐ寝てしまうのだが、今回は目が冴えていた。
いろんなことが頭の中をぐるぐるしていた。

たった2日で回復できるのかな。
みんなちゃんと働いているのに、どうして私はこんなに弱いんだろう。
どうしてこんなに苦しい思いまでして働かないといけないんだろう。

あ、また涙が出てきた。
いやいや、ここは車内だぞ。泣いてたら周りの人に変な目で見られるよ。


こんなんでこれから生きていけるのかな。
私って社会不適合者なのかな。
私が生きている意味ってあるのかな。

ぐしゃぐしゃな気持ち、急にまた襲ってきた真っ暗な世界。
私がいる意味を肯定してもらいたくて友人にLINEをした。
訳のわからないいきなり送ったメッセージに、友人はすぐ返信してくれた。

「私はあなたに生きていてほしいと思っているよ」

また涙が溢れた。今度は違う涙。きっと嬉しい涙。
こんなに弱くても、周りと同じように働けなくても
私はいていいんだ。

嬉しさとしんどさ。安心と不安。
新幹線のトンネルみたいに暗くて見えない私の未来。
未来が見えない、と初めて思った。

止まらない涙を隠すために
マスクを顔いっぱいに広げて、目を閉じて寝ているふりをした。
いつもは鬱陶しいマスクも
この時ほどマスク着用のマナーに感謝したことはない。

窓に反射した私の泣き顔は、もしかしたら通路の反対側の人には
見えていたのかもしれないけれど。

To be continued.


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