アメリカの大学受験から学ぶ、いいエッセイを書くコツ
アメリカの大学受験では、パーソナルエッセイと言って、受験生が自分の人生や印象深かった出来事などについて書いたエッセイを大学に提出しなければならない。大学の受験担当者は、このエッセイや共通試験の点数、高校の成績や推薦状などの提出書類をひとまとめにして、その総合的な出来を吟味して合否を決定する。その中でもエッセイは、合否を分けるほどの重要なピースだとも言われる。
大変重要な部分であるため、アメリカの高校生は提出期限の何ヶ月も前から必死にエッセイのトピックを考え、周囲の大人や友人にアドバイスをもらって何度も推敲を重ねてエッセイを完成させる。もう本当に、エッセイはとにかく何よりも大事なのだ。
なんでエッセイがこんなに大事かというと、ここで、大学側が受験生の個性や考え方、大学のカルチャーにフィットするかなどの人間性を見ると言われているからだ。受験生が、点数や成績はいまいちだけど、その分色んな人生経験を積んできましたよ、とアピールしたりと、自分の生身の声を直接大学に届けられる唯一の場所としてエッセイを使うこともある。
私もアメリカの大学受験時には、このエッセイに散々苦労させられた。ただ、苦労すればするほどいいエッセイが書けるというのも本当で、18歳の時点で徹底的に自分自身を見つめ直し、自分の人となりを最もよく表すエピソードを上手に書いてまとめる、というエクササイズは非常に意義があったと今になって感じている。(でも書いているときは辛くて、よくパソコンに向かって泣いていた)
この重要なエッセイだが、お題は非常に単純で、ざっくりまとめるとなんでもいいからあなた自身のことや、あなたにとって大事なこと、難しいことにチャレンジした経験や、他人に優しくしてもらった経験、嬉しかった成功体験、興味のあるアイデアなどについて書きなさい、というものになる。(詳しくはこのリンクで読める)
noteでもエッセイを書いている人は多いと思うけれど、このお題に当てはまるようなことを普段書いている、という人も多数いるのではないか。というかここまで幅の広いお題だと、エッセイなるものの全般を含むようにも思う。
となると、この受験エッセイを書くときによく言われるコツは、エッセイを書くとき全般に当てはまるのではないか。
前置きが長くなったが、こうやってエッセイを書く際に、高校生が必ず言われるアドバイスがこれだ。
「エッセイの筆者の名前を隠してもあなたが書いたと分かる、あなたにしか書けないエッセイを書きなさい」
筆者の名前を隠す、というところがミソで、例えば「合唱コンクールに優勝して嬉しかった」などあまりに一般的なトピックだと、誰が書いた文章であっても成立してしまう。そこで「クラスメイトと意見をぶつけ合い、土日に無理やり音楽室に集まって練習した」みたいなエピソードを加えれば加えるほど、独自性が出てきて、他の人には書けなかった内容になってくる。
最近noteを書くようになって、いいエッセイってなんだろうな、と考えていてふと思い出したのだが、このアドバイスは本当に大学受験のエッセイだけでなく全てのエッセイに通じるように思う。
あなたにしか書けない、あなたしか経験していない、もしくはあなたの目線でしか分からないことは何か。他の人の名前に筆者をすり替えたら成立しなくなるような、あなた固有の感想を、思いを、考えを、聞きたい。
その表現の仕方は、エピソードの内容でも、そこから得た学びでも、文章での表現方法でも、なんでもいいんだと思うんだけど、そこに何かしら、他の人とは違う固有のきらめきがある文章に、人は惹かれるし、読みたいと思うし、何よりも、書く本人にとって書く価値がある、伝える価値があるものになるように思う。
エッセイの種となるような、自分にしか書けないことって、全ての人が持っていることだ。なぜなら、理論上全く同じ遺伝子を持って全く同じ経験をして育ってきた人は地球上の歴史において前にも後にも存在せず、あなたはたった一人しかいないから。だから、それをただ表現さえできればいい、と思うと、エッセイを書くことのプレッシャーが少し軽くなる一方で、本当に私にしか書けないことを、と思うとそこを突き詰める責任も生まれて、それを一言で表した何だかいいアドバイスだな、と思う。
書きたいことの種さえあれば、あとはそれに水をやって形にするだけだ。一旦形にした後に、この中で、他人が言っていても違和感のない、削ってもいいようなことはなんだろう、私だけの感想ってなんだろう、と考えて推敲すればいい。
私も18歳の時にエッセイを書いては消し、書いては消しする中で、これを他の人が書いたことにしても違和感がないか、という基準で推敲を重ねていた。別に誰でも書けるようなことならば、わざわざ文字数を割いて大学受験の重要な一部分にあてる必要がない。その結果できたエッセイは、確かに、他の人だったら書けないような当時の私の経験や考えが詰まったものになっており、そこまで突き詰めた達成感は今でも忘れられない。
結構手軽だが奥深いアドバイスだと思う。困ったときにふと思い出すと、もしかしたらエッセイが書きやすくなるかもしれない。私も今後もこれをガイダンスに書いていきたい。
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