見出し画像

【感想と考察】「君たちはどう生きるか」

鑑賞後に残ったのは、寂しさでした。

どうしてそう思ったのか、エンドロールが終わり、辺りが明るくなった時はわかりませんでしたが、確かに寂しいな、と感傷に耽ったのです。

帰りのバスに揺られながら、SNSでいろんな人の考察やら感想やらを流し読みするうちに、その正体が少し形になったような気がします。


本作は、これまでのジブリ作品との決別である、と思います。

これは、ジブリファンの私としては大変物悲しいですが、仕方のないことなのかもしれません。


色んな考察でも言われていましたが、登場人物たちは宮崎駿監督を投影しており、ストーリーや設定も宮崎駿監督の自叙伝的な側面が多くありました。

特に、母親を幼い時に亡くし、継母との関係に悩む姿や後継者に焦る姿は彼の生い立ちや長年苦悩してきたことと重なります。


こうした自叙伝的見方をすると、最後のシーンがジブリ作品との決別、と受け取れるのです。

大叔父さんは13個の悪意のない積み木で理想の国を創り上げようとしていました。この大叔父さんは宮崎駿監督、13個の積み木は彼の創ったジブリ作品たち。宮崎駿監督は作品を通して、理想を訴え、現実社会へ新たな導きを常に見出していました。ですが、理想の国では生と死が共存し、まさしく均等が取れた世界。しかし、ペリカンやオウムといった者たちにより次第にバランスをなくしていきます。

宮崎駿監督もジブリ映画を通して世の中へ伝えてきたこれまでの苦悩が伺えます。

最終的に、理想の国は破滅に終わります。ジブリ作品を通して自然と人が共存し、他者を愛し合う世界を描いてきたのに、現実社会は離れていくばかり。争いは止まらず、声の小さいものたちは蹂躙されていく。こんな混とんとした社会に対して、もう伝えることは何もない、もう抗えないことへの諦めなのでしょうか。


宮崎駿監督の諦めは私には絶望に等しく、もうあのジブリのような世界は見れないのか、と思ってしまいます。

アオサギは最後、眞人に問います。まだ覚えているのか?、と。

まだ、過去のジブリ作品に浸っているのかよ、と監督からの叱咤にも聞こえました。


絶望に終わってしまうのか、結局、ジブリは理想論で、実現不可能、という終わりなのか、と思ってしまいますが、そうではありません。


監督はこう生きて、失敗もしたし、できなかったこともある。だが、現実は続いていく。そこで君たちはどう生きるか、考えたまえ。


眞人は最後、理想の国で拾った石を現実世界へ持って帰ってきます。

私が小さいときに見たジブリ作品は今も私の心の記憶に残っています。その記憶を開けばいつだでも温かく、感動を呼び起こしてくれます。

これからはその感動を生きる力にしていかなくちゃいけない。

それは、ジブリ作品だけではなく、大切な人との別れにも当てはまるのだと思います。諸行無常の世界で、死や別れ、破滅は免れない。けれども持って帰ってきた石のように心に残り続け、背中を押してくれるのです。


本作の感想を語ることは自分の人生観を語ることになる、と誰かの考察で目にしました。

私は小さい頃からジブリ作品に触れて、心を耕してきたと思います。その耕した心を今度は外の世界へ広げていきたいと思うのです。

ジブリの登場人物たちのように純真ではないし、ジブリの世界のように調和のとれた世界ではないけれど、私は私のやり方で、現実にしていきたいと、願わずにはいられません。


鑑賞後に残った寂しさは今はもうありません。こう生きたいと思う場所へ進んでいくことに胸を高まらせる気分です。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?