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さくらエフェメラル断章

またこうして季節は廻ってくる。
ただそれは去年と同じようでまったく同じではない。
昔の恋人をふと思い出す。あの時の佇まい、あの時の質感、あの時の声…どこか名残があるようで、なんとなく似ているようで、結局誰にも似ていない。目の前にいるのは今その時の存在である。
半透明の生命感、あえかな佇まい、風に揺らぐその様はまるで無常を心得ているようである。
ひとつひとつは小さくても、花弁は確かな量感を持つ。色みは淡いはずなのに、様々な色が重なって見える。柔らかく薄いはずなのに、張りが確かに主張するもの。
陽光を透かし、分散させ、影が揺れる。それは清冽にある幻想であろうか。春の潤んだ空気の中でエフェメラルなものが見え隠れする。

また会いたいと約束をしようとしているうちにどこかへ遠くへ行ってしまう。約束への希望は予感の中に消えていき悔恨が残る。
季節も恋人もいつの間にか通り過ぎていくー実態というより気配であり、佇まいや質感、声もまたエフェメラルである。

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