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行政のDX推進に必要な「デザインシステム」

いま「DX」という言葉が、いたるところでバズワードとなりつつあります。
DXとは、デジタルトランスフォーメーションのこと。2018年に経済産業省が公表した定義によると、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」とされています。

DXが重要なのは民間だけではなく、行政でも同じです。2021年9月1日にはデジタル庁がついに発足するなど、国全体を巻き込んでのDX推進がますます行われる途上にいます。地方自治体を含む行政機能においても、今後ますますのDXの推進が期待されています。

ただ、行政においてDXを浸透させることは、民間以上に課題が多いのも事実。どのようにすれば、DXを推進していくことができるのでしょうか。


DXの肝となるのは「ガイドラインの周知徹底」

行政のDX改革を進めるうえでは、「それを使う人びとが何を求めているのか」を把握することがカギとなります。

これは行政のDXに限らず、あらゆるデザインについて言えることです。たとえば「図書館」と聞くと、「本を借りる場所」と思ってしまいがちです。しかし住民たちが図書館に、むしろ地域間でのコミュニケーションを求めているかもしれません。その答えは、地域や人によってまちまちなはず。そこで何が求められているかを、デザインリサーチを通して把握していく必要があります。

求められているものが明確になってきたら、それをもとにサービスやプロダクトの方向性を定めていきます。このガイドラインはチーム内における共通言語、いわばマインドセットのようなもの。具体的な機能やレイアウトは、このガイドラインをもとにブレイクダウンしていくことになります。

このガイドラインの部分がしっかり浸透していないと、せっかくルールを定めたとしても、後に誤った運用をされかねません。デザインやコンテンツをつくるうえで気をつけるべきことを、あらゆるレイヤーにしっかり周知させていく必要があります。


その行政にあったデザインシステムを

ただ行政、特に中央省庁の場合、人の移動がかなり激しいという特性があります。影響力のある人物や企業が抜けてしばらくしたら、そのプロジェクトがめちゃくちゃになっていた、ということも考えられます。それは避けなければなりません。

先進的な行政サービスを提供している国々では、しっかりとしたプロセスを定めています。つまり、「ちゃんと自分たちの提供しようとしているものが誰向けなのか」「それを理解したうえで、こういうものをつくっていこう」というのがデザインシステムのなかに組み込まれているわけです。

デザインシステムについては、ANKR DESIGN代表・木浦のこちらの記事もご覧ください。

具体的なやり方は国によってさまざまで、たとえばニュージーランドのデザインシステムの場合、具体的な手順にいたるまで、かなり踏み込まれて書かれています。そこにはまず理解するフェイズがあり、どういう手法があるのかの説明から、ペルソナの使い方や作り方までカバーしています。こういうものがあると、人事異動があっても、「これに従っていけばいい」ということがわかります。

もちろん、デザインシステムで何を重視するかは、国によって変わってきます。イギリスの行政のウェブサイトとアメリカの行政のウェブサイトを比べると、イギリスではどの省庁も同じデザインで統一されている一方で、アメリカはそこまで制約が強くないことがわかります。日本の場合も、その特性にあったやり方を見つける必要があります。

ひとつ日本にとってポジティブなことを挙げるとするならば、いま行政のデザインシステムで先を行っている国々も、10年以上前はあまり力を入れていなかったということです。まだ遅くはありません、たしかに行政のDXという視点で見たとき、日本は先進国のなかでは後発組です。しかしそれは裏を返すと、おいしいところだけ真似ができる立ち位置ということでもあります。

「自分たちはどうなりたいのか」、日本のデザインシステムはどうあるべきなのか、現場の声に耳を傾けつつ、それを土台にしっかりとガイドラインを固めていくことが望まれます。


デザインに完成版はない

このようにガイドラインはきわめて重要なのですが、その一方で「作ったらそれで終わり」ということはほとんどありません。「こういうのを加えてほしい」という市民の声を拾い上げていくためにも、初期に作成したマニュアルを同じ形で何十年も使うというのは現実的ではありません。どうやって改善を回していくのか、そのためには何が必要なのかを、絶えず考えていく必要があります。

時代や対象者が変われば、求められているものも自ずと変わってきます。家族連れかそうじゃないか、どのユーザーに価値を提供したいのか、そのユーザーの課題を本当に解決したいのか。漠然とひとかたまりで「市民(ユーザー)」と捉えるのではなく、その先の具体的な人物を思い浮かべられるようにならなければ、デザインシステムは機能しなくなります。

「まずはやってみる」という心持ちで、市民と話をし、彼らがどういうニーズを持っているか探り続けましょう。その際、「市民はこういうものを求めているのではないか」というバイアスは可能な限り捨てなければなりません。自分の考えが本当に正しいのかを疑い続け、市民を巻き込んでいく姿勢が、行政サービス作りをするうえでは不可欠です。

また、行政でサービスをしている側の視点も忘れないようにするべきです。たとえば百貨店では、売り場でモノを売っている人たちのストレスが高く、離職率が高い傾向にあります。たとえ、強固なデザインシステムを作っても、市民に直接触れ合う立場の方々が離職してしまっては絶え間ない改善がうまくいくはずもありません。百貨店であれば、お客様からの満足度はもちろんのことですが、従業員をしっかりを支える仕組みをデザインする必要があります。これは、行政においても同様のことが言えます。気持ちよく働けるかどうかを、無視してはいけません。その視点がなければ、どんなサービスも回らないのです。

それでは行政に関わる方がこれからできるDXとは一体何なのでしょうか。DXを推進する対象がすでにあれば、前出の「『それを使う人びとが何を求めているのか』を把握する」ためのデザインリサーチの実施をご検討ください。ANKR DESIGN代表の『デザインリサーチの教科書』をご覧いただくと、詳細なプロセスがおわかりいただけるかと思います。

また、ANKR DESIGNでは、行政のDXについても支援可能です。デザインリサーチやプロトタイピング、そしてデザインシステム策定を実施することで、DX推進へとつなげましょう。ぜひお気軽にお問い合わせください。

(文・石渡翔

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