『哲学入門〜毎日を豊かに生きる〜』
『ロバート・ツルッパゲとの対話』を出版するにあたって、気づいたり再確認できたことがたくさんあった。
写真を撮るときは、クリエイティブディレクターやアートディレクターと話し合って進行することはある。でもそれはほぼ同じ共通認識を持った人たちの中での議論であり、一方向的になりやすい。本という「モノ」を売るためには多くの、自分がかかわることができない「見知らぬ人のチカラ」を借りることになるわけです。
『ロバート・ツルッパゲとの対話』が刷り上がって、最初の1冊目を買ってくれたのは、なんと、その本を書店に納品してくれたドライバーの方だったそうだ。
自分が配送した本を、「何だ、これは」と思ってくれたんだろう。表紙やタイトルが持つインパクトとはそういうことなんだと思った。もしそれが『哲学入門〜毎日を豊かに生きる〜』みたいな題名で、地味な薄紫色の表紙だったらそれはなかったと思う。
さっき、茂木健一郎さんが「本が届いた」とTwitterで報告してくださったのだが、茂木さんはたまたま表紙とタイトルを知って、面白がって注文してくれたらしい。
俺は広告制作者として数十年、クライアントの製品を宣伝してきたんだけど、自分がクライアントになる経験は本当に貴重だ。本の表紙は広告ポスターと同じだから、自分が撮った写真、デザイン、帯のコピーを使った。
哲学という難しい言葉を中和させるためには、「知らんけど」という大阪弁が絶対に必要だった。これら、自分が正しいと思ったアプローチが世の中から黙殺されたら専門職としての脳味噌を否定されたことになり、救いようがない。というか、年商数千億の企業から数千万円のギャラをもらっている根拠がなくなってしまう。
そういう意味では胸をなで下ろしているんだけど、まだ発売から10日ほどしか経っていない。ここから先が長い。
フィードバック効果で、今後、俺の写真やデザインは微妙に変化していくかもしれない。やはり自分が身を削ってクライアント(供給者)の立場にならないと見えてこないモノは多い。もちろん自家中毒になり、広告業界での内輪ウケを狙えばいい、などとは昔から1ナノメートルも思っていないけど。
広く告げる、という字義から言っても、我々が見るべき先は狭い業界ではないはずだ。だからこそ、本の配達を終えた人がそれを手に取り、買ってくれたという事実は手応えがあったのだ。
多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。