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ダサいと言われたら即死:全マガジン

「クリエイターは、ダサいと言われたら即死」という格言があります。だからみんな必死です。「ダサい」というのは「自分を持っていないこと」だという定義に私は賛同します。オシャレな展覧会を観に行くことも、最先端のファッションブランドを身につけるのも、彼らはダサいと言われて即死したくないからそうしているんでしょうが、すでに死んでいるんです。

似たようなコミュニティで「あの展覧会まだ行ってないの、マズいっすよ」みたいに言い合うのは至極恥ずかしい行為です。その手の人たちを観察していると、判で押したように同じトピックに飛びついているのが手に取るようにわかります。「これを観に行っていれば大丈夫印」が欲しいだけなのです。

ですから、ある、たったひとりだけが行ったマイナーなアーティストの展覧会の話などは決して出てきません。全員が「サイ・トゥオンブリー、ヤバかったよねー」と言い合うのです。それって情報の入手源が違うだけで、大混雑の『オルセー美術館展』に並ぶカルチャーおばさんたちと何もかわらないんですけどね。

アートというのは「自分がすべてを決定しないとそこに存在しないモノ」であるはずですから、無から有を生む、クリエイションに関わる人が、誰かの従順な消費者になってどうするんだよ、と感じます。

狭いコミュニティ内での生存だけを考えるとそれでいいのでしょうが、その張り切り具合がトンマに見えることが多々あります。私が好きな泉谷しげるさんのエピソードがあります。加藤和彦さんだったか、オシャレ系の人が集まるパーティで、シンプルなコンソメスープが振る舞われたそうです。たぶん素晴らしく美味しい繊細なスープだったんでしょう。それを飲んだ泉谷さんが「おい、これだけか、飯は出ないのか」と言ったそうで、スープだけが出てくるというエレガントなセンスに庶民的な常識をぶつけたシニカルさにこのエピソードの楽しさはあります。

裸の王様に出てくる子供の役割がいない場所では、センスが濃縮されて自家中毒を起こすのです。怖いですね。ダサいって言われたら即死ですからね。


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