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Anizine

写真家・アートディレクター、ワタナベアニのzine。
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2023年7月の記事一覧

パリス・ヒルトン側:Anizine

みんな、たいした人生なんか送っていない。大谷翔平や井上尚弥みたいに、その一挙手一投足がニュースになることもない。でもそれぞれかけがえのない「たったひとつの人生」には意味があると思って暮らしていることには、価値がある。 さて、自分のたいしたことのない人生を大切にしながら日々を生きる、という大前提を理解した上で。そこにスケベ根性というか、うまくいけばちょっとだけ「盛ろう」という気持ちが生まれることがある。インスタで友だちと名のあるイタリアンに行った写真はアップするけど、前日夜の

過労死しないために:Anizine

「お前はいつ寝ているんだ」とよく聞かれますが、ほとんど寝ていません。忙しぶっているとか、売れっ子であるとかいう理由ではなく、兎に角が生えるくらい、とにかく仕事をするのが好きなだけなのです。 若い頃にデザイン事務所に入ったときは、当時の自分が持っていた処理能力を遥かに超える仕事を任されました。「これができるんだ」という楽しさとうれしさを感じていたので、毎日夜中まで仕事をしていてもまったくブラックだなどとは思いませんでした。やったことが自分の仕事として次々に世の中に出ていくんで

タワーマンション:Anizine

アメリカでは低所得者層のための公共団地を「Project」と呼んでいる。Housing project の略だと思うが、日本の高層住宅がそれに見えて仕方ない。地方都市には30階や40階の高層住宅がほとんどないことから、上京してきた人は「高いところに住む」ことに価値を感じることが多いが、元々、大都市の伝統的な高級住宅地と言われる場所に高層住宅はない。 つまり、

穏やかな世界:Anizine

「あなたはどう生きるか」を問われても、答えはそう簡単ではありませんよね。それは哲学の最重要命題かもしれないんですから。どう生きるかというのは方法論のように聞こえますし、信念や倫理観にも聞こえます。つまり質問が抽象的で大きすぎるのです。 日常生活の中で抽象性を排除しすぎると窮屈になります。これは勝手な想像ですが、おおらかで幸せそうに見える人々はみんな抽象的な言動が多いような気がします。哲学や宗教はそもそも抽象的ですから当たり前なのかもしれませんが。高度な科学などでも突き詰めて

クレームポイント:Anizine

ノリオとマサルは渋谷を歩いていた。 「お腹空いたね。吉野家にでも行くか」 「そうしようか」 109近くの吉野家に入っていくふたり。若い外国人店員がノリオとマサルの方に近づいてくる。 「申し訳ありませんが、ご遠慮願えますか」 どういうことだかわからない。見たところあまり客は多くなく、満席という意味でもなさそうだ。 「ご遠慮って、どういうこと」 「お客様がご自分でわかってらっしゃると思うんですが」 「何のことだろう。この店員、日本語わかってるのかな」 奥から店長らしき

月曜のニコラス:Anizine

月曜なので、雑な話をさせてください。かなり昔、仕事で LA か NY に行ったときのことです。アメリカの西海岸と東海岸は日本で言えば札幌と下関くらい文化が違いますから、この時点ですでに雑なのがわかると思います。まあフランクに大ザッパに「アメリカの都市」と思ってくれれば大丈夫で、重要なのはそこで見たことです。 ごく普通のカフェでコーヒーを飲んでいると、自転車を押した60代後半くらいのおばさまがテラスに近づいてきて、私の斜め前で新聞を読んでいる男性に声をかけました。気づきません

夏のソーシャルメディア:Anizine

ちょうど切りがいいので、7月から毎日何かしらのマガジンを更新しようと思って書いています。暑苦しいかもしれませんが、夏ってそういうものですから。 真面目なことを言うと、ソーシャルメディアの作法というものには多くの誤解があります。そもそもこの新しいメディアが生まれてからまだ数十年しか経ていないからで、作法が確定していないせいもあります。「私はこうしていて、そうしていない人は間違っている」などの論法を見かけますが、そのスタンスに疑問を持った方がいいです。人によっては小笠原流は間違

AIはどうなるのか:Anizine

最近、誰と会っても「AIはどうなるんですかね」と聞かれるようになった。別にこちらはAIの専門家ではないし、新しい情報を知ると「まだそれを知らないの」と誰彼構わず言いたいような欲求もない。 どんなテクノロジーも、十年から少なくとも数年の研究を経て世の中に知られることになる。何も考えておらず、ただストックされた返事をするという「Eliza」などの「人工無能チャットソフト」は1966年からあり、我々がMacを使い出した頃にはそれだけでも面白がっていたのだが、30年近くかかってやっ

大根役者:Anizine

苦手な話をするのは憚られるんですけど、質問を繰り返されるのが苦手なんですよね。あれをする人ってどういう心持ちなんでしょうか。考える時間を稼いでいるのか、ただの癖なのか。 「休日は何をしてますか」 「え、休日ですか。映画に行きますね」 「どんな映画が好きですか」 「映画ですか。サスペンスですね」 これと似ていてちょっと違うのもあります。聞いたことがあるはずです。