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ノリオとマサルは渋谷を歩いていた。

「お腹空いたね。吉野家にでも行くか」
「そうしようか」

109近くの吉野家に入っていくふたり。若い外国人店員がノリオとマサルの方に近づいてくる。

「申し訳ありませんが、ご遠慮願えますか」

どういうことだかわからない。見たところあまり客は多くなく、満席という意味でもなさそうだ。

「ご遠慮って、どういうこと」
「お客様がご自分でわかってらっしゃると思うんですが」
「何のことだろう。この店員、日本語わかってるのかな」

奥から店長らしき人物があらわれた。

「すみませんけど、帰ってもらえますか。うちみたいなクソな店で食べなくても渋谷にはたくさんお店がありますから」

ノリオには心当たりがあった。先月くらいだっただろうか。新宿四丁目の吉野家に行ったとき、店員の態度が悪かったから「クソな店だな」と悪態をついたことがある。しかしあのときにいたのが、この店員か店長だったのだろうか。不可解だ。

ふたりは不思議そうな顔をしながら東急本店方面に向かって歩き出す。ガスト宇田川町店に入る。

「お客様、入店をお断りします」

またである。どうなっているんだ。ブツブツ言いながらふたりは店の外に出る。頭に来るというより、何が起きているのかわからない不可解さのほうが上回っている。

「あ。俺、四谷のガストで料理を間違えられたりしてキレたことあるわ」

マサルが言う。間違えた料理を持って来た店員が謝らなかったので文句を言ったら「あの客、出禁な」と厨房の奥で言うのが聞こえたのだ。

「でも、それは四谷の店の話だろう。全店舗に情報が行き渡っているってことか」
「だろうな。さっきの吉野家もおそらくそうだろう」

実はこれには『国の政策』が絡んでいることに彼らは気がつかなかった。

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Anizine

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写真家・アートディレクター、ワタナベアニのzine。

多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。