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月曜のニコラス:Anizine

月曜なので、雑な話をさせてください。かなり昔、仕事で LA か NY に行ったときのことです。アメリカの西海岸と東海岸は日本で言えば札幌と下関くらい文化が違いますから、この時点ですでに雑なのがわかると思います。まあフランクに大ザッパに「アメリカの都市」と思ってくれれば大丈夫で、重要なのはそこで見たことです。

ごく普通のカフェでコーヒーを飲んでいると、自転車を押した60代後半くらいのおばさまがテラスに近づいてきて、私の斜め前で新聞を読んでいる男性に声をかけました。気づきませんでしたが、その彼はニコラス・ケイジでした。おばさまはニコラスの前に立って、こう言います。

「あんたはいい役者なのに、最近ろくでもない映画に出すぎじゃないかしら。もっと作品を選ばないとダメよ」

急に知らないおばさまに声をかけられたニコラスは読んでいた新聞を置き、

「わかってはいるんです。でも色々事情もあって簡単に断れないものもあるんですよ」

とにこやかに答えました。おばさまは「わかったわ。よい週末を」みたいに何気なく去って行き、ニコラスはまた新聞を読んでいました。そのとき、なんだかとてもいいコミュニケーションを見た気がしました。わー、映画俳優だ!とか、写真を撮らせてください!とかではなく、内容は辛辣でしたが昔からの知り合いのようにさりげなく話していたあの会話は、なかなか我々には真似できないよなあと感心したのです。

ソーシャルメディアに代表される現代のコミュニケーション作法は、それだけで数冊の本が書けるほど鼻にツンとくる劇薬で、関わる距離感で対人スキルがすべてわかってしまう地獄のツールなのです。その恐ろしさを感じた経験は何度もあります。というわけで距離感を保つためにここからは定期購読メンバーにだけお伝えします。先日もこう書いたら「ケチくせえな。無料で書けよ」というリプライがTwitterについていました。こういう人は店に行って興味がある商品を見たら店員に「ケチくせえな。無料でくれよ」と言うのでしょうか。はなはだ疑問です。

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Anizine

¥500 / 月

写真家・アートディレクター、ワタナベアニのzine。

多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。