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穏やかな世界:Anizine

「あなたはどう生きるか」を問われても、答えはそう簡単ではありませんよね。それは哲学の最重要命題かもしれないんですから。どう生きるかというのは方法論のように聞こえますし、信念や倫理観にも聞こえます。つまり質問が抽象的で大きすぎるのです。

日常生活の中で抽象性を排除しすぎると窮屈になります。これは勝手な想像ですが、おおらかで幸せそうに見える人々はみんな抽象的な言動が多いような気がします。哲学や宗教はそもそも抽象的ですから当たり前なのかもしれませんが。高度な科学などでも突き詰めていくととても哲学的になって行く例があります。「宇宙の終わり」とか言われても、もうそれは宗教の概念ですよと言いたくなります。

さて、日常生活を生きる上で、給料をもらったり、家賃を払ったり、車のローンを返済したりと具体的な行動はたくさんあります。これらはある種、答えがわかっている機械的な行動です。毎月10日に引き落とされる、とかいう問題については対処さえしておけばいい。考える必要はありません。それらの問題に対して必要以上にのめり込むと「オペレーション人間」になります。

整理しやすい問題は、ある種の心の平安を満たしてくれます。毎日乗る電車は8時5分に来る、という事実が安定した日々を支えています。しかしここにあまり信頼を持ちすぎると電車が遅れたときにパニックになるのです。ダイヤの乱れに怒り狂う人を見ると「この人は正確なダイヤを愛していたんだろうな」と感じます。整合性に依存する心地よさは、いざそれが破綻したときに崩壊します。「昨日は電車が4時間くらい遅れたよ」みたいな毎日を平然と生きているイタリア人のような神経を我々が持つことは不可能でしょう。「最終的に着けばそれでいいでしょ」という気持ちがあるので、駅員に詰め寄るようなことがない穏やかな世界です。

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Anizine

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写真家・アートディレクター、ワタナベアニのzine。

多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。