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Anizine

写真家・アートディレクター、ワタナベアニのzine。
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2023年2月の記事一覧

桐生くん:Anizine(無料記事)

桐生くんというガキ大将がいた。いわゆる「ジャイアン」だ。彼は僕らの街ではちょっと知られたお金持ちの子で、大人たちはその家を「桐生財閥」と呼んでいた。今となっては、「あれが財閥かよ」と冷静に思うのだが、田舎というのは、羽振りのいいセメント屋の倅が代議士になるような狭く古くさい価値観で動いているものだから仕方がない。 桐生くんは僕らの草野球チームのキャプテンでエースだったが、チームメイトにいつも鉄拳制裁をくわえていた。「桑名、なんであそこで盗塁したんだよ。あのあとにケンジがヒッ

創造と消費:Anizine

今日は久しぶりの人と話した。普段ほとんど電話という手段を使わないので新鮮だったけど、元気そうな声を聞けたのはよかった。 彼がソーシャルメディアから消えたのはしばらく前で、話を聞いてみると薄々感じていたことと近かった。繊細な人が多くの雑音に晒されると精神的に疲れるというのは想像に難くない。FacebookやTwitterに書かれることはどんなに正当性の衣をまとっていても、結局は「自己主張」であり「自己顕示欲」であり、「宣伝」だ。それを脱している人は本当に一握りで、自分がそうな

有料記事と優良記事:Anizine

ソーシャルメディアの特徴として、プラットフォームが無料という問題があります。Twitterの不具合に怒り狂うとき、それを無料で使っていることを忘れている人もいます。もちろん見えない部分で収益化はしているんですが、自分が直接お金を払っている実感がないと、有料・無料という認識は難しくなります。AI の根幹にある「巨大なデータのインプット」に無料で提供した知識が使われることとも関係していて、プラットフォームは逆に利用者から無償で提供された集合知を獲得しているわけです。 つまりこど

そのふたつの光:Anizine

その日はお酒を飲み過ぎたようで、ふと気づくと道路の真ん中に寝てしまっていた。アスファルトの冷たさを頬に感じながら、チカラが抜けて動けない身体をよじる。AirPodsからは大音量で "Highway star" が聞こえている。 遠くに光が見えた。僕が横たわっている車線に向かってくるヘッドライト。おそらく時速90キロは出ているようだが、運転している人は街灯もない道路に真っ黒い服を着た男が寝ているとは夢にも思わないだろう。このままでは確実に轢かれてしまう。ほんの数十メートル先に

『地球を31周』その4:Anizine

さて次はどこに行こうかな。今のところ行き先に決め手がありません。外国には目的なく行くことがほとんどなので、もともと決め手などないんですけど。昔、ゴールデンウィークの仕事の予定が急に変更になり、10日くらい休みができてしまったのでどこか外国に行こうと思いました。 旅行会社の窓口で聞いてみるとゴールデンウィーク直前でしたから、ParisやNY行きのチケットなどはもうありませんでした。モニタに向かって「あれもない、これもない」と窓口の女性が調べてくれているうちにだんだん悪いなと思