マガジンのカバー画像

Anizine

写真家・アートディレクター、ワタナベアニのzine。
¥500 / 月
運営しているクリエイター

2021年1月の記事一覧

他人の家を覗く:Anizine

インターネット以前の「パソコン通信」に飛びついたアーリーアダプターの多くが、無線の人たちだった。アマチュア無線、CB無線と言われるものは「遠くにいる誰かと繋がれる」というテクニカルな興味が第一にあって、会話の内容にはそれほど重きが置かれていなかった印象がある。 それは電話が発明された時と似ていて、遠くの人と会話ができることを試すだけで十分驚くことができた。ただ、そこにはマニアしかいなかったから、閉じた空間だったことは言うまでもない。 インターネットでソーシャルメディアが普

哲学と宗教と孫娘:Anizine

友人から聞いた話。 病室に宗教と哲学を研究していた90歳くらいのおじいちゃんと孫娘がいた。おじいちゃんはもうほとんど話すことができず、お迎えももうすぐだろう。仲の良かったおじいちゃんと孫娘は、最後に何か筆談でやり取りしていたようだ。 葬儀が終わってから家族が筆談ノートを見つけ、最後のページを開く。 「さすがにおじいちゃんだね。哲学者だ」 「見せて。なんて書いてあるの」 「亡くなる直前に書いた一言が『無常観』だよ。おじいちゃんらしいよ」 孫娘は、黙ってみんなの話を聞

おじさんと小籠包:Anizine

以前、イタリア、フランスでの仕事をしていたときは、4月と11月にロケに行っていた。だからその時期になるとFacebookで「何年前の今日」と、どちらかの写真が浮上することになる。4月と11月はヨーロッパの気候がいいときで、写真を見るとロケ場所の風景やそこで会った人のことを懐かしく思い出す。 最初にヨーロッパに行ったのはちょうど30年前くらいか。仕事でロンドンやアバディーンなどに行った。それから帰ってきてすぐに友人とロンドン、パリに遊びに行った。フランスはまだフランを使ってい

◎支援ご報告:Anizine

コロナで隔離中の人へ 10,000円 「青山ブックセンターで本を買おう」 5,000円×10名 50,000円 合計 60,000円を「Anizine」の定期購読料から支援しました。 定期購読メンバーの皆さん、いつもありがとうございます。 note「Anizine」 https://note.mu/aniwatanabe/m/m27b0f7a7a5cd

椅子の数が決まっている:Anizine

プロ野球の一軍選手は約300人、と聞いたことがある。つまり、300人の優秀な選手が新たに出てくれば、今の選手のすべてが職を失う可能性もあり得る。 こういう「椅子の数が決まっている仕事」がある一方で、いくら後発が増えても影響のない職業もある。松任谷由実、サザンオールスターズ、山下達郎、井上陽水さんなどは、どんなに新しい歌手やバンドが出てきてもその地位が揺るがない。いくら選択肢が増えても、音楽の市場には座るべき新しい椅子が用意される。 だから俺は周囲の若者が写真やデザインをや

ままならず生きていく:Anizine

先に書いておきます。 この話の結論は、Anizine定期購読メンバーに向けてだけ書くので、メンバー以外からのご意見はエレガントに無視します。 電車で隣の人の新聞が読めないからと言って、買っていない人が「もっとこっちに向けろ」と要求できるでしょうか。そう言われて断るのは「情報にお金を払っていない人」への排除や差別をしているのではありません。正当な権利ではないからです。ここまではご理解いただけると思います。 というように、比喩や単純な例を持ち出すと、意図が理解できずに表面的

知らない人と話す:Anizine

前にも書いたことがあるんですが、俺はかなりの人見知りでした。それを若い頃に意識的に克服したんですが、いまだに根っこは同じままです。 この克服にはとても単純なメソッドがあって、つまり社交的な人を演じる方法です。演じていると思うと責任が軽く、気が楽になります。人の性格なんてそう簡単には変わるものじゃありませんけど、演じる能力は訓練で上げることができる。 もしあなたが人見知りなら、この方法を試してみてください。うまくいかなくても元のままですし、何かのきっかけがつかめれば少しは気

小学生の頃と同じかな:Anizine

中学生くらいの時には、もうすぐ大人になってしまうという焦りを感じたものだ。ぼんやりと人生をサボって時間をやり過ごしているだけでよかったのが、子供という居心地のいい独房から釈放されるみたいに「責任が発生する大人」というシャバが目の前に近づいてくるのを恐れた。 子どもの頃は自分が大人になるなんて考えもしなかった。 そしてそれは57歳という、何食わぬ顔をして60歳に近いポジションにいる今でもまったく同じだ。50歳を過ぎ「映画の料金が割引になりますよ」とチケット売り場で知らされた

本を買おうぜ、第二弾:Anizine

1/11 追記 10人のサポートが終わりました。ありがとうございます! さっき、青山ブックセンターに行ってきました。4冊買いましたが、お客さんは緊急事態宣言の影響もあるのか、あまり多くはありませんでした。 俺は20代の初めから、毎日のように六本木の青山ブックセンターに通っていました。今はないですけど、渋谷の仕事場の近所に本店があります。その頃は自分が書いた本がそこで売られるとは夢にも思っていませんでしたけど、やはり、書店はずっとあり続けて欲しいのです。 Anizineの

贈り物を捨てる罪:Anizine

あるクリスチャンから「あなたはクリスチャンですか」と聞かれたことがある。その人はこのnoteを読んでくれているんだけど、俺がいつも書いていることの基盤が、キリスト教にあるのではないかと思ったそうだ。 子どもの頃に近所の教会に通っていた。難しくて意味はわからなかったけど、そこで聞く話は睡眠学習のように自分の考えの基礎を作っていたんじゃないかといまさら気づいた。外国に行くと特別な意識もなく、必ず教会の扉を開けて、その厳かな雰囲気に浸りたくなることも幼い頃からの習慣なのだろう。

定期購読マガジンについて。

あるベテラン俳優の撮影をしたときのこと。インタビューがある場合は、その人の話を聞いて、話している表情や雰囲気を知ったあとに撮影することにしているんですが、その日はどうしても別の撮影に行かなければいけなかったので、先に撮らせてもらうことにしました。 少しだけ話してから撮影。撮り終わって、失礼ですがインタビューを聞かずに失礼します、と伝えると、その俳優は「これからすごく面白い話をしようと思っていたのにな」とニッコリして言います。本当はもちろんお話を聞きたかったんですが、そのいた