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おじさんと小籠包:Anizine

以前、イタリア、フランスでの仕事をしていたときは、4月と11月にロケに行っていた。だからその時期になるとFacebookで「何年前の今日」と、どちらかの写真が浮上することになる。4月と11月はヨーロッパの気候がいいときで、写真を見るとロケ場所の風景やそこで会った人のことを懐かしく思い出す。

最初にヨーロッパに行ったのはちょうど30年前くらいか。仕事でロンドンやアバディーンなどに行った。それから帰ってきてすぐに友人とロンドン、パリに遊びに行った。フランスはまだフランを使っていた。どちらも東京に比べると物価が安く感じ、特にパリのビストロやカフェは今のアホ値段が想像できないほど安かった記憶がある。

もちろんまだユーロスターはなく、ドーバーを渡りたいと思っていたのでロンドン・パリの往復は船にした。ちょうどサマータイムの切り替えの時期で船の出る時間を間違えそうになったり、憶えていた乗り換えの駅名が英語とフランス語でまったく表記が違っていて間違えたりと、かなりきわどい場面もあった。ド素人である。

船でドーバーを渡ったのは「距離感」をつかむためだった。イギリスと大陸との距離は泳いで渡ることができるくらいだとは知っていたが、飛行機で行ってしまうとそれがわからない。友人の堀部さんは確かテレビの企画で泳いでいたはずだ。

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今ではそのドキドキもなく、鼻毛を抜くような気分でヨーロッパに降り立つ。パリに住む友人に「アニは今まで何回パリに来たの」と聞かれ、20回を超えたあたりからはもう数えていないと答えた。彼女は「すごいね。私は一度しかパリに来たことがない」と言って笑った。洒落た答えだ。

サウナには行ったことがないから想像で書くんだけど、熱い部屋と水風呂を交互に楽しむと聞いたことがある。俺にとって外国に遊びに行くのはそれと似ているんじゃないかと思う。ずっと熱いのもつらいし、水風呂ばかりでも飽きる。行き来することが楽しい。

ちなみになぜ俺がサウナを好きじゃないかと言えば、小籠包などの「せいろ」を思い浮かべて欲しい。

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Anizine

¥500 / 月

写真家・アートディレクター、ワタナベアニのzine。

多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。