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知らない人と話す:Anizine

前にも書いたことがあるんですが、俺はかなりの人見知りでした。それを若い頃に意識的に克服したんですが、いまだに根っこは同じままです。

この克服にはとても単純なメソッドがあって、つまり社交的な人を演じる方法です。演じていると思うと責任が軽く、気が楽になります。人の性格なんてそう簡単には変わるものじゃありませんけど、演じる能力は訓練で上げることができる。

もしあなたが人見知りなら、この方法を試してみてください。うまくいかなくても元のままですし、何かのきっかけがつかめれば少しは気分が楽になるでしょう。

俺が人見知りを意識し始めたのは小学校高学年の頃で、とにかく自分が好きなひとりかふたりとしか話しませんでした。数年前に偶然中学校の同級生とFacebookでやりとりしたんですが、俺が憶えているのはその人だけで「彼を憶えてる?彼のことは?」と聞かれた全員を忘れていました。

それぞれの時期に毎日仲良く遊んでいる友人は必ずひとりかふたりで、彼らにしてみたらたまには他の友だちとも遊びたかったでしょう、悪いことをしたと思っています。

人と深くつきあうことはできたのですが、それが広くならない。友人がたくさんいないのは決して悪いことではないんでしょうが、誰かと知り合うことの可能性を失っていたかもしれません。

仕事を始めると、デザインというのは孤独な作業ですから、打ち合わせなどをのぞくとほとんどの作業はひとりです。毎日朝から晩までデザインをしているのは性に合っていて心地よい日々でした。デザイナーとアートディレクターというのは専門外の人にはわかりにくいでしょうが、職種が違います。

デザイナーはアートディレクターの指示のもと、デスクでひたすら作業をするんですが、アートディレクターはクライアントにプレゼンテーションをしたり、デザイン以外のビジネスをしなくてはなりません。そこで「これは人見知りなんて言ってる場合じゃないな」と気持ちを切り替えたのです。わかりやすく自分を変えるために、服装が自由な職場なのに、あえて毎日スーツを着ることにしました。

一般の企業の会議室などに行くことが増えるので、その方が若造扱いされずに済みますし、今までとは違う自分を演じるユニフォームというか、コスプレのようなものだったのでしょう。それからは「自分は社交的な人間だ」と思って過ごしました。すると慣れてくるものです。

週に一度も誰とも話さなかったような生活から一変して、さまざまな分野の人と知り合い、もはや俺の人見知りを知る人はいなくなりました。やってみるとそれほど難しくはなかったのですが、それが誰にでも当てはまるとは思いません。俺の場合は、です。

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Anizine

¥500 / 月

写真家・アートディレクター、ワタナベアニのzine。

多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。