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「オオカミ族の少年」読了。

【オオカミ族の少年】

ミシェル・ペイヴァー=作
さくま ゆみこ=訳
酒井駒子=画

「クロニクル千古の闇」シリーズ1作目。
酒井駒子さん画の表紙が独特の雰囲気を醸し出すファンタジー小説。

【あらすじ】

紀元前4000年。
父親と二人で森に暮らしていたオオカミ族の少年・トラクは、悪霊に取り憑かれた熊に父親を殺される。最後に父と交わした「万物精霊の宿る山を見つける」という誓いを果たすため、トラクは旅に出る。旅の途中で出会った生後間もないオオカミ「ウルフ」と、ワタリガラス族の少女・レンともに。

【少年の成長物語】

精霊の山に捧げる3つのナヌアクを手に入れるという試練、子オオカミとの絆、他部族の少女・レンとの友情など、児童文学・冒険ファンタジーならではのエピソードがたっぷり。旅を通して逞しく成長する少年の姿が描かれる。

【リアルな描写】

森に生きる動物の姿や、狩りで捕らえた獲物を余すところなく利用する様子、薬草の使い方、魔術的なしきたりなど、どの描写もとてもリアル。
本当にこんな暮らしをしていたのだろう、と目に浮かぶほど詳しく描かれている。子供向けのファンタジー小説とはいえ、しっかり地に足の着いた骨太な物語だった。
また、ウルフから見た人間(背高尻尾なし)の姿はユーモアが溢れていて、なるほどと思わされる。動物から見た人間なんて、とても奇妙で脆弱な生き物に違いない。

【現代人が失ったもの】

死と闇がすぐそばにあった時代。
何よりも重要なのは「その日」を生き抜くこと。
ちいさな自然の痕跡を読み解き、森の生き物や植物、案内役・ウルフの声に耳を傾けながら果敢に旅を続けるトラクの「生きる力」に驚くばかり。

現代に生きる私たちが失ってしまった逞しさと、自然の中で生きる知恵。
自然の恵みに生かされていることへの感謝、他の命への尊敬。
太古の人々の生きざまに、人間も自然の一部だったはずなのに。と今の自分の軟弱さや無知を思い知らされた。(今、夜の森に一人置き去りにされたら情けないことに、私は何をどうすればいいのか全くわからない。)

【トラクとウルフの絆】

赤子の頃にオオカミの巣穴で育ったトラクと、大水で家族を失ったウルフ。ともに孤独を抱えた同士がオオカミ語で会話しながら心を通わせる姿や、無邪気にじゃれ合う姿がとても微笑ましい。次第にトラクを「兄貴」として慕い、成長するウルフの姿は愛らしくも頼もしい。それだけにラストシーンでのトラクの悲しみが胸に迫る。

【残された数々の謎】

熊を悪霊憑きにした7人の「魂喰らい」とは。彼らの目的は。
旅を終えたトラクの今後は。
ウルフはどうなったのか。
そして、主人公・トラクとは何者なのか。
残った謎が解き明かされるであろう続編も楽しみです。


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