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ヘルプ商店街 #毎週ショートショートnote

「ほい、一人暮らしの餞別だ。」
祖父はそう言って『ヘルプ商店街』とだけ書かれた小さな紙きれをくれた。「おじいちゃん、これどこなの。住所も地図も書いてないよ。」
怪訝な顔でそう尋ねると、祖父は「心配せんでいい。必要な時がくればきっと行ける。」と大きな手で僕の髪をぐしゃぐしゃにして笑った。

ヘルプ商店街を知る人はおらず、やがて僕は理想の商店街を想像し始めた。世界中の書物、武器に薬草、古道具から最新機器まで古今東西のあらゆるものが揃っていて、必要とあらば店主が知恵を貸してくれる。本当に困った者だけが辿り着ける商店街。
時を忘れてそんな想像をしていると、些細な悩みなどどうでもよくなってしまうのだ。

やがて僕はその想像を一冊の本にした。
タイトルはもちろん「ヘルプ商店街」。その本で僕は一躍有名になった。

小さな一枚の紙切れが僕に豊かな想像力を与えてくれた。
そしてあの日の祖父の笑顔や言葉とともに、今も僕を見守り支え続けてくれている。

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