大好きだったあの人vol.20



彼のお母様はとてもお若いと思った。

アタシの祖母が同じ歳に亡くなったのだが、祖母と比べてとても若く見えたからかもしれない。

“東京さ“の人はコトバがキレイ!
何気ない会話もとても上品に聞こえる。


あと、ずーっと気になってたのは、お母様がアタシを見ても少しも驚かなかったコト。

自分の息子が孫よりも若い小娘を連れて来たのに、眉ひとつピクリともしなかった。

「は〜、“東京さ“の淑女はこんなコトじゃあ驚きもせんのやなぁ」

と思ったが、今ならわかる。
アタシに気を遣って、動じないように見せてくれたダケだろう。

子どもの頃から大人びた顔立ちをしてて、同年代に比べれば年イッてるように見られガチなアタシだけど、それでも彼に比べれば、まだまだ小娘。
お母様だって、最初アタシを見た時は少し目眩がしただろうヨ。
「おい、息子、マジか?」って。

それをアタシが傷つかないように、気後れしないように、努めて冷静を保ってくれてただけだと…


彼は自慢のAVルームを見せてくれた。

あの部屋で見た映画はとても迫力があった。
でも実は何を観たか覚えていない。

彼がずーっとアタシを抱きしめていたから。

「そうだ!aneの為にオーディオを買わなきゃ!
どこのアンプがイイですか?
ウチのじゃなくても、どこのでも、アナタが気に入るのならなんでもいいよ」

彼は少しはしゃいでるように見えた。

アタシは「要らないよ、ココにあるモノでアタシは充分」と答えた。

彼はぎゅーっとアタシを抱きしめながら、言った。

「この部屋をaneに見せてあげたかったんだ。
本当にアナタがこの部屋に居るんだね」

「そうだよ、オバケじゃないよ」

「嬉しいよ。幸せだなぁ。
ane、ずっと側に居て」

アタシは夢見てるみたいだって思った。

彼がずっと側に居てって言ってくれる。

そんな一言が本当に嬉しかった。


お夕飯はお母様と彼の手料理をご馳走になった。

アタシは大したお手伝いも出来なかった。

うーん…お皿並べるぐらい?

準備に全然戦力にならなかったから、せめてはとお片付けだけは頑張った。

お母様と一緒にお皿を洗っていたら、お母様がおもむろにアタシに切り出す。

「aneちゃん、私はね、幾つになったって息子が可愛いから、アナタが息子の所に来てくれるのが本当に嬉しいのよ」

アタシは何て答えたらいいかわからなかったので、お母様を見つめて笑った。

「私はあの子を置いて先に逝くでしょう?
その後、どうしようかしらって心配だったの。
だからアナタがあの子と一緒に居てくれるなら安心できるのよ」とおっしゃった。

「でもね、私達はそれでいいけど、アナタはどうなのかしら?とも思うのよ。
恐らくあの子のほうが先に逝くでしょう?
きっとその時にはまだアナタは若いはずよ。
そんな若いアナタをこんな老ぼれ達に付き合わせてもいいものなのかしら?とも思うの」とも。

「息子さんと一緒に居たいというのは、アタシが望んだコトなんです。
彼は優しいからアタシのワガママに答えてくれたんです」

アタシはそう返すのが精一杯だった。

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