大好きだったあの人vol.22
彼と入籍すれば、戸籍上、アタシには息子ができる事になる。
その事実は少しずつアタシに「結婚」するという事がどういう事なのかを冷静にちゃんと考えろ、と言ってるみたいだった。
もしも、アタシが子どもを産む事になったら、息子さんには自分の子どもとさほど変わらない兄弟ができんだよね。
子ども同士はなんて思うんだろう…
アタシとSちゃんの子ども…
幼稚園や保育園で
「○○ちゃんのお父さんはなんでおじいちゃんなのー?」
と言われる我が子を想像する。
言うよな、そりゃ子どもは素直だもん。
でも言われた我が子は?
きっと傷つくよな…
アタシは次から次に浮かぶマイナスのイメージに、眠りにつくコトができなかった。
ああ、アタシは「彼と一緒にいたい」という身勝手なワガママを押し付けるだけで、その先のコトを何ひとつ考えてなかったんだ。
そのコトに今さらながら気がついた瞬間だった。
彼はそれらの事をすべて考えた上で、いろんなことを想定した上で、アタシを迎え入れる決心をしたんだろう。
じゃあアタシは?
アタシはちゃんと受け止めてるの?
アタシは両親にすら「東京へ行きます」って話してない、だって言えば絶対に反対されるだろうから。
本当に両親を捨ててくつもりなの?
ちゃんと向き合って話もろくにしないまま?
アタシは「ずっと一緒にいる」の先にある「結婚」という事が、なんなのかをちゃんと理解できてなかった。
「結婚」というのは、お互いが背負っているモノを二人で一緒に背負っていくというコト。
お互いの家族、お互いの仕事、これから二人が築き上げる家族、それらすべてを二人で一緒に協力し合って守っていかなければならない。
そしてお互いが抱える問題を二人で一緒に解決していかなければならない。
どちらも責任を持って。
当人同士の「好き」という感情だけでしていいモンじゃないんだ、「結婚」ってのは。
初めてわかった。
そして、如何に自分がコドモだったか、という事も。
今回の帰りの新幹線のホームでは、もうアタシは泣かなかった。
「帰りたくない」とも言わなかった。
今回も彼はグリーン車の切符を買ってくれて、ホームまで見送りに来てくれた。
新幹線に乗り込み座席に着くとまた彼から着信。
「次いつこっちに来るかはまた決めようね。
それまでにこれから何をすればいいか僕も考えておくから」
「うん」
「ane、愛してるよ」
「うん、アタシも、大好きだよSちゃん」
「着いたら電話してね」
「うん」
前回の別れとは少し違った。
「結婚」という現実がどれだけ重たいのかを知ってしまったから。
前回、「東京へ行く」と決心した時よりもさらに、重い決断をしなければならないコトに気づいたから。
でも、あの時のアタシには、まさか自分が彼の元へ行かない選択をするだなんて想像すらしてなかった。
これが彼の顔を見る最後になるだなんて、あの時のアタシは思いつきもしなかったんだ。
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