見出し画像

メルヘンのような日曜日 少年との出会い

■ 10歳の男の子に急に話しかけられるところから物語は始まる

近所のスーパーに向かって歩いていると、何やら後ろから気配を感じた。イヤフォンをつけて音楽を聴いていたので、ひとまず道をあけて歩き続けたのだけれど、何か声がするなと思い、足を止め、イヤフォンを外すと自転車に乗った男の子が何か言っている。邪魔なのかなと思って、「ああ、ごめんね」と言ったのだけれど、更に少年は話し続ける。良く耳を傾けると…

「シャチの折り紙作れる?」

普段言わない単語の連続で、理解するまでに時間がかかった。なにぶん昔と違って、ご近所さんで知らない人と会話する機会なんてほとんどないのだし、今の時代は昔以上に「知らない人と話してはいけません」と厳しくしつけられるだろうから、話しかけられるなんて少しも思っていないので、とてもびっくりした。

「Youtubeでシャチの折り紙作るのを見て、作って欲しい」

急にフィクションみたいなシチュエーションに突入させられたと思ったけど、Youtubeと出てくるあたり、「あ、現実世界なのね」と思わされる。

いまいち状況が呑み込めないまま、「こっちこっち」と自転車に乗った少年に誘導され、リュウキくんと名乗る少年が「名前なんて言うの?」「折り紙やったらジュース買って欲しい」と矢継ぎ早にまくし立てられる…。

「これはモニタリングか何かか?」「というか、会った瞬間からいきなりたかられているぞ」…これはいったい村上春樹?伊坂幸太郎?…色々と考え始めるが、言われるがままについていく。

■ 急にはじまる「ともだちごっこ」のような「おやこごっこ」のような時間

「いつも誰かに声かけてるの?」「なんで声かけようと思ったの?」と聞いたのだけれど、あまり大したこたえがかえって来ないので、ひとまず成り行きに任せることにした。昔から子どもに好かれやすいタイプなのもあるし、別に同情したわけではないのだけれど、話していると家庭が複雑そうなのと、いじめられていて友達がいないということだったので、何となく見捨てられなかった。

折り紙をやるのかと思いきや、「ジュースが飲みたい」「ゲームがやりたい」と次々とリクエストが変わるので、ちょうど買い物に行くから一緒にスーパーに行こうと言って、スーパーに向かうことにしたのだけれど、途中のボードゲーム屋さんに行くと言い始めた。

これは新手の客引きなのではないかと思いつつも、勝手にお店に入っていくので、15分100円のボードゲーム体験を1回だけやることにした。「お店の人、私たちは親子ではないけれど、誘拐とかではありませんよ」と心の中で言いつつ、車のすごろくのようなものをやる。

15分はあっという間に経過し、お店を出ようとすると、「もっとやりたい」と言い出すので「1回の約束だからやらないよ。ほら、もう行くよー」と言って店を後にする。

結局スーパーではアイスとお茶とおにぎりを買ってあげることになり、お店の中で「開けていい?」と言われて「お店の中では開けちゃダメだよ」と言ったり、食べ終わったゴミを道に捨てたのを「ゴミ箱に捨てなきゃダメだよ、拾っておいで。誰かがポイ捨てしてたら嫌でしょ」と言ったり、インスタントお父さんの誕生です。素直に「はーい」って聞くから、良い子なんだろうな、あまり言われたことがないだけで。

短い時間でも、友達とお父さんをまとめてやりますよという感じで、結局2時間くらい一緒にいて、ハイタッチをしてバイバイをした。

遠くなる自転車から「気を付けて帰ってねー」と元気な声。

何だかとても不思議な時間だった。

いじめられているために、夏休み明けから、違う小学校に転校するらしい。そこではおじさんじゃなくて、同い年のお友達が出来るといいなと思う。また、会うことがあったら話をしよう。その時はお互いに状況が好転しているといいね。



よろしければサポートをお願いします。自費出版(紙の本)の費用に充てたいと思います