ショート　moving the needle/針を回す

傘をさしても無駄と
すぐ分かるほどに
目の前が全部雨だと
気づいて踵を返す

週末のフードコートは
夏服に着替えるのを
忘れた6月1日みたいで
独りを強く感じた

食べるつもりのなかった
ポテトを指で弾いて
本を開けてみたけれど
延々と降る雨粒のように
文字はひたすらに流れる
ばかりだった

繰り返し思い出されることば
寄せては返して
押し返される想いに囚われて
まばたきを忘れて
視界も想いも濁って停滞する

弾いたままのポテトは冷めて
ダウンライトに光る塩の結晶
持て余したあの日のままの熱情
何でも出来るはずの自由は
トレイに置いたままにそこにある

次に進むための道標
海を住処に飛び続けるカモメが
持っている本能と執着はどこへ

次のまばたきを合図に
何もかもが変わるようなことは
ないけれど
『もうそろそろ行かなくちゃ』
とは思うんだ

傷ついたままでいる方が
きれいなものに見えるのだろう
でも、今のままいても
誰の目にも止まることがないから
『もうそろそろ行かなくちゃ』
と思うんだ

次のまばたきを合図に
何もかもが変わるようなことは
ないけれど

消えない、癒えない傷に気づいて
やまない雨、醒めない夢に
途方にくれて
それでも押し殺しているうち
忘れられてしまうから
『もうそろそろ行かなくちゃ』と
思うんだ

どこに、どうやって行くのかは
相変わらず分からないままだけど

◇◇

Harukaさんとの共作のスピンオフ
もし、同じ気持ちでいて
読んでくれたひとがいて
こんな風に思ってくれたなら…と